BRAD MEHLDAU
この美味しい4曲は通常の5つ星とは一線を画するほどの価値があるのだ
"LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD"
BRAD MEHLDAU(p), LARRY GRENADIER(b), JEFF BALLARD(ds)
2006年10月 ライヴ録音 (NONESUCH : 7559-79956-5)

このアルバムはVILLAGE VANGAUARDにおける2006年10月の11日から15日までのライヴを収録したものだ。その1ヶ月ほど前に僕は日本でのライヴを聴いた。東京オペラ・シティのライヴ(2006年9月16日、JAZZ批評 365.)は魂を揺るがすほどの演奏だったが、今となっては僕の記憶の中にしかない。5曲ものアンコールに応え、プレイヤーと聴衆との一体感を実感できた、それは素晴らしいライヴであった。そして、その1ヵ月後に、このVILLAGE VANGAUARDでの5日間ライヴとなったわけだ。

<DISK 1>
・INTRODUCTION
@"WONDERWALL" 
GRENADIERの定型パターンに乗ってテーマが奏でられる。
A"RUBY'S RUB" 
心地よい4ビートを刻むMEHLDAUのオリジナル。
B"O QUE SERA"
 シンプルな演奏でMEHLDAUのピアノ・プレイが堪能できる。MEHLDAUにはこういったメロディアスな曲が合っていると思うし、実際、MEHLDAUらしさの一番良く出た演奏だと思う。右手の妙と左手の妙をじっくりと味わいたい。
C"B-FLAT WALTZ" 
前曲に続いて、MEHLDAUらしさのでた演奏だ。ここではBALLARDの良くスイングするサポートも楽しめる。
D"BLACK HOLE SUN" 
この曲にも美しいテーマがあり、そのテーマをどんどん発展させていったものだ。GRENADIERの良く歌うベース・ソロも聴きものだ。このベーシストは大向こうを唸らせるようなテクニックを披露したりはしない。あくまでも基本に忠実に、そして、これが肝心なことだが、強靭なピチカートとベースの本文を見失わないプレイが素晴らしい。23分以上に及ぶ長尺であるが徐々に高揚感を増していくそのさまが良い。中盤から演奏スタイルが一変し、アップ・テンポの過激な様相を呈してくる。ベースが定型パターンを奏でる中で、BALLARDのドラミングと丁々発止のインタープレイを演じるMEHLDAUのピアノに注目したい。後半部はまた演奏スタイルが変化し、BALLARDのドラム・ソロともいえる展開になる。ライヴならではのスリリングな展開に釘付けとなる。
E"THE VERY THOUGHT OF YOU"
 美しいスロー・バラード。MEHLDAUのピアノの一音一音を噛締めるように聴いていたい。エンディングと思いきやMEHLDAUのソロが延々と7分ほど続くが、このソロこそMEHLDAUの真骨頂とも言える味わい深いものだ。兎に角、左手の重低音にインパクトが強くて、これこそMEHLDAUと言いたくなる。素晴らしい!!恐らく、観客はそのプレイに圧倒され、声も出なかったろう。

<DISK 2>

F"BUDDHA REALM" 
タイトルからも一筋縄でいかない予感をさせる。案の定、何拍子か分からない変拍子だ。メロディアスな部分は影を潜め、抽象画的色彩を強くする。
G"FIT CAT" 
これもテーマからして抽象的色彩が強くなるMEHLDAUのオリジナル。後半の4分間はシンプルな躍動プレイに変化する。
H"SECRET BEACH"
 PAT METHENYのギター・ソロが圧倒的な凄みを持っていた名作、"QUARTET"(JAZZ批評 406.)のプレイが思い起こされる。この曲はMEHLDAUのオリジナルの中でも10本の指に入る名曲といえるだろう。11分後の頂点に向けてどんどん高揚感が増していく。
I"C. T. A."
 ここではGLENADIERの強靭でドライブ感満載の4ビートが堪能できる。併せて、BALLARDのシンバリングにも耳を傾けたい。後半には力強いBALLARDのドラム・ソロが用意されている。
J"MORE THAN YOU KNOW" 
メロディアスなバラード。こういう曲にこそMEHLDAUの凄さが漂っている。決して饒舌プレイではなくて、むしろ、「間」のあるプレイだ。一音一音が有機的な結合を持っているように連鎖していく。
K"COUNTDOWN" 
長いピアノのイントロからテーマに入っていく。超高速4ビートでの超絶技巧が見られるもののあまり感動しない。最後は前衛紛いになって終わる。

DISK 1とDISK 2の総合評価としては5つ星でもいいのではないか。
購入単価は3000円でお釣りが来た。国内盤では1枚で2800円や3000円が珍しくない中、2枚組みで2千数百円というのは価値がある。
2枚のCDで全12曲。当然、1曲あたりの演奏時間が相当長い。自分の好みではないと思ったら無理して最後まで聴くこともないだろう。美味しいトラックだけを聴くのでもよいと思う。
僕にとっての美味しい演奏は
BEHIというところだろうか。この美味しい4曲は通常の5つ星とは一線を画するほどの価値があるのだ。言ってみれば、5つ星を超越した6つ星というところか。またしてもやられたという感じで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2008.04.19)



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独断的JAZZ批評 479.