独断的JAZZ批評 746.

ENRICO PIERANUNZI
黒っぽい演奏とリリカルな演奏の対比が極端
"PERMUTATION"
ENRICO PIERANUNZI(p), SCOTT COLLEY(b), ANTONIO SANCHEZ(ds)
2009年11月 スタジオ録音 (CAM JAZZ : CAMJ 7845-2)


イタリアのジャズ・ピアニスト、ENRICO PIERANUNZIの今度のアルバムはNEW AMERICAN TRIOと銘打っている。現在のアメリカを代表するプレイヤー、SCOTT COLLEYとANTONIO SANCHEZとのトリオだ。
今までの不動のメンバーといえば、アメリカ人のMARC JOHNSONとJOEY BARONであった(JAZZ批評 426. & 548.)。その間に、オランダ人のHEIN VAN DE GEYN(b)とフランス人のANDRE DEDE CECCARELLI(ds)という組み合わせもあった(JAZZ批評 324. & 352.)。いずれ劣らぬ素晴らしいトリオで数々の優れたアルバムをリリースしてきた。
ジャズという音楽はメンバーが変わると音楽自体もガラッと変わってしまうことが良くある。なぜなら、その時々の一瞬を各人のインスピレーションで切り取っていく音楽だからだ。
今回のメンバー変更には新たな音楽的志向を模索したいという意図があったのは間違いないだろう。その意図は、全ての曲がPIERANUNZIの手によって書かれたオリジナルであるという点にも表れている。

@"STRANGEST CONSEQUENCES" PIERANUNZIと言えば、叙情的で、しかも、知性的なピアニストという印象で、何よりも美しいピアノを弾く人というイメージが強い。そういうイメージを払拭したいと思ったのかどうか?テーマ自体もモーダルな雰囲気だし、リリカルな印象はまるでない。
A"CRITICAL PATH" 
同様にモーダルな演奏だ。やけに黒っぽいのだ。
B"PERMUTATION" 
これも黒っぽいテーマ。途中で倍テンになったりするけど、アドリブも幾何学模様だ。
C"DISTANCE FROM DEPARTURE" 
一転して、リリカルなバラード。
D"HORIZONTES FINALES" 
この曲はこのアルバムの中で最も「PIERANUNZIらしい」演奏であると思う。美しいメロディとうねるような躍動感。多くのファンが待ち望んでいた演奏ではないだろうか?
E"EVERY SMILE OF YOURS" 
これも「らしいテーマ」であり、「らしい演奏」だ。こういう演奏を聴くと安心するね。美しくも躍動感が横溢している。
F"WITHIN THE HOUSE OF NIGHT" 
哀愁を帯びたバラード。
G"THE POINT AT ISSUE" 
ハード・タッチのテーマで黒っぽさが戻ってきた。最後のテーマが喧しいと言えば喧しい。
H"A DIFFERENT BREATH"
 

このアルバム、黒っぽい演奏とリリカルな演奏の対比が極端。@、A、B、Gは黒っぽくてちょっと無機質な感じ。この黒っぽさっていうのはSANCHEZのドラミングから醸し出されている面もあるようだ。対して、残りの5曲は妙にリリカルだ。PIERANUNZIが最初から意図したものだろうか?特に、初めの3曲に黒っぽい曲が続いているので、アルバム全体の印象もそちらが強くなる。
僕は2週間にわたってこのアルバムを聴いてきたが、何か馴染めないものを感じている。こういう音楽ならPIERANUNZIでなくても良かったと・・・。ひとつの殻を破りたいという思惑もあっただろう。確かに、メンバー変更によって音楽が変わった。でも、どの演奏が好きかと問われれば、先に紹介した"LIVE IN PARIS"(JAZZ批評 324.)や"DREAM DANCE"(JAZZ批評 548.)の方が好きだ。   (2012.03.17)

試聴サイト : http://www.youtube.com/watch?v=K1vTRT8-Hkw



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