西山 瞳
もっとナチュラルにエモーションが表現されるようになると一味も二味も良くなるだろう
"MANY SEASONS"
HITOMI NISHIYAMA(p), HANS BACKENROTH(b), ANDERS KJELLBERG(ds)
2007年7月 スタジオ録音 (SPICE OF LIFE : SOL JP-0005)

西山瞳のアルバムは昨年発売の"CUBIUM"がネットでも結構話題になった。当時、「女エンリコ」とか言われていたようで、活動するヨーロッパで高い評価を得ていたようだ。しかし、「女エンリコ」と言われるのは彼女にとっても有難い評価とは言えない。「誰々に似ている」とか「まるで○○のようだ」というのは正当な評価とは言えないだろう。やはり、西山瞳は西山瞳でなければいけない。そういう評価が出てきて一人前といえるのだと思う。もし、本当に「女エンリコ」であるとするなら、本物のENRICO PIERANUNTZを聴いた方が、そりゃあ、お得というものだろう。
で、このアルバムはSPICE OF LIFEの第2弾にあたるという。
EGHを除く7曲でオリジナルを提供する意欲作でもある。メンバーは第1弾の"CUBIUM"と同じ、HANS BACKENROTHとANDERS KJELLBERGが参加している。この二人、なかなかの力量の持ち主で、ある面で主役の西山を食っている。

@"FLOOD" 
初めてこの曲を聴いたときの印象はデビュー当時の山中千尋に似ているなあという印象。西山もハードに弾きまくるがタッチが少し弱いというかメリハリに欠けるというか・・・。ドラムスとベースのサポートはなかなか良いね。
A"MANY SEASONS, MANY SCENES, MANY SORROWS" 
西山の書いた曲はそれなりに凝っていて、単純明快とはいかない。これが良いのか悪いのか?僕はもっとシンプルであった方が良いと思うのだが。意欲の空回りという感じがしないでもない。
B"SAKIRA" 
女性らしい繊細で美しさに溢れた佳曲。ベース・ソロは良いとしても、全体に、ベースの音量がでしゃばり過ぎなのが困った。
C"AL" 
このテーマも山中が好んでコンポーズしそうな曲だ。演奏が惰性に流される嫌いがある。もっと、メリハリがつくといいと思う。その後に続くベースのソロとドラムスのソロは切れがあって良いね。
D"BEFORE NIGHT FALLS" 
美しいバラードであるが叙情的に流されるだけでインパクトに欠ける。BACKENROTHの太くて力強いベース・ソロが光る。それぞれの力量を合算し、更に、プラスアルファが出てくれば素晴らしいと思うのだが。
E"SNEAKING AROUND" ブルースの大御所、RAY BRYANTの手になる32小節の歌モノをブルージーに演奏。
F"LOUDVIK" 
7拍子。こういう変拍子を面白いと感じる人と生理的に気分が悪いという人に分かれるとすると、僕は後者。変拍子というのはすっきりしないんだなあ。何かが多すぎるようでもあり、何かが足りないようでもある。そして、このピアニスト、エモーションより知性が優先されてしまう傾向がある。
G"WALTZ" なんていうのかなあ!そつはないけど面白みに欠けるんだなあ。録音バランスのせいだと思うがベースが出過ぎ。
H"HERMITAGE" PAT METHENYの書いた曲でテーマをベースのBACKENROTHが受け持つ。
I"INNERTRIP" 
タイトルからして観念的な匂いのする曲で、とても口ずさむことは出来ない。

ピアノのタッチにもっとアタック感やダイナミズムが出てくるといいね。柔らかタッチだけで小1時間をもたすのはちょっと苦しい。全体的に知性と観念が凝縮した形で、少々、理屈っぽい。もっとナチュラルにエモーションが表現されるようになると一味も二味も良くなるだろう。何故に「女エンリコ」などという称号を与えられたのか、僕には不思議だ。
サイドメンの力量は素晴らしいものがあると思うのだが、残念ながら、それが活かしきれていない。1+1+1=3が4にも5にもなってこそピアノ・トリオの真価が発揮できているといえると思うのだが、その域には達していない。
暫く時間を置いたらまた聴きたくなるかというとその自信はない。このくらいのピアノ・トリオ・アルバムは世に五万とあるので、また、聴きたくなる可能性というのは極めて低い。CDケースの肥やしにするつもりはないので、中古市場へ出して誰か気に入ってくれる人に嫁いだほうが幸せだろう。
西山のこれからの更なる躍進を期待したい。   (2007.11.15)



独断的JAZZ批評 446.