独断的JAZZ批評 730.

ANTONIO FARAO
FARAOの音楽というよりは「メッセージ」に近い
"DOMI"
ANTONIO FARAO(p), DARRYL HALL(b), ANDRE CECCARELLI(ds)
2011年11月リリース スタジオ録音 (CRISTAL RECORDS : PCD-93469)


このアルバムを聴いた第一印象は、ベースの音が増幅の効いた締まりのない音なのでいまいちという印象だった。DARRYL HALLはエレキもアコースティックも弾くベーシストで、YouTubeなどで観ると結構ゴリゴリとアコースティック・ベースを弾いている。多分に録音技術とミキサーの好みというのが影響しているのだろう。
前回購入したFARAOの2006年録音のアルバム、"WOMAN'S PERFUME"(JAZZ批評 463.)にいたっては、DOMINIQOUE DI PIAZZAというベーシストが全編エレキ・ベースだったから、またもやエレキかと疑ってしまった。FARAOのアルバムの中ではMIROSLAV VITOUSとDANIEL HUMAIRが競演した"TAKES ON PASOLINI"(JAZZ批評 315.)が一番の好みかな。このアルバムでは3者の気力、体力、能力が充実、拮抗していて丁々発止の演奏を聴かせてくれたものだ。
この"DOMI"ではベテラン・ドラマー、ANDRE CECCARELLIが叩いているのも聴きものだ。CECCARELLIのドラミングというと、ENRICO PIERANUNZIの"LIVE IN PARIS"(JAZZ批評 324.)を思い出す。硬軟縦横のドラミングが素晴らしかった。

@"SOMETHING" 先ずベースの音色の第一印象がよろしくない。アンプの増幅音だ。にもかかわらず、ピアノの音色はすこぶる良い。クリアな音色で生き生きとした音色だ。
A"FREE DIALOG" 
3人の競作とあるのでインプロビゼーションなのだろう。ベースの定型パターンを背景にピアノが抽象的な色彩を帯びた演奏を展開する。
B"IZIEU" 
「サブタイトルに第2次世界大戦で亡くなった44人の子供たちに捧げる」とある。美しくて哀しみを帯びたバラード。DARRYLのベース・ソロが挿入されているが、それほど増幅音が気にならない

C"INSIDE" 
これまた美しいイントロから始まるピアノ・ソロ。多分に叙情的な演奏だ。
D"PAST" 
E"AROUND PHRYGIAN" 
"PHRYGIA"とは中近東の小国を指すらしい。
F"ONE SOLUTION" 
冒頭から4ビートを刻んで進む。ここまで、しっとりした曲が多かったので久しぶりに躍動感が味わえる。やはり、FARAOにはこういう演奏の方が似合う。
G"DOMI" 
息子"DOMINIQUE"捧げたバラード。ピアノの高音部が美しい。
H"SPONTANEO" 
これも叙情的な曲と演奏。何故、これほどまで叙情的な曲を集めたのか?
I"NO CHANCE"
 アドリブではアップ・テンポの4ビートを刻むモーダルな曲。最もFARAOらしい演奏。乗り乗りのドラミングで暴れまくるCECCARELLIが素晴らしい。やっと本領発揮という感じで溜飲を下げる。

「このアルバムを愛息DOMINIQUEと世界の子供達に捧げる」と書いてあるように、優しさと慈愛に満ちており、なおかつ、哀しみをも湛えている。これはFARAOの音楽というよりは「メッセージ」に近いと思う。
どちらかというとFARAOらしくないアルバムに仕上がった。VITOUS、HUMAIRとのトリオを聴いた後だけにインパクトの弱さが際立つ。最後の最後の曲になってやっと溜飲を下げたという格好だ。   (2011.12.06)

試聴サイト : http://www.7netshopping.jp/cd/detail/-/accd/1301132802



.