独断的JAZZ批評 693.

MARCIN WASILEWSKI
どんどん良いところも悪いこところも削り取って平均的で没個性的なアルバムに仕上がってしまった
"FAITHFUL"
MARCIN WASILEWSKI(p), SLAWOMIR KURKIEWICZ(b), MICHAL MISKIEWICZ(ds)
2010年8月 スタジオ録音 (ECM : 2208 275 9105)


MARCIN WASILEWSKI名義のアルバムとしては初めての紹介になるが、SIMPLE ACOUSTIC TRIO名義のアルバムとしては"KOMEDA"(JAZZ批評 93.)と"HABANERA"(JAZZ批評 418.)の2枚を紹介してきた。いずれも、いかにもヨーロッパ的な音作りで透明感のあるリリカルな演奏が楽しめた。反面、ブルース・フィーリングやバップテイストが希薄であるのは仕方のないことかもしれない。
"KOMEDA"が1995年の録音、"HABANERA"が1999年の録音。このアルバムが2010年の録音であるが、この間、誰一人としてメンバーが変わっていない。息の長いトリオである。
MARCIN WASILEWSKIは1975年のポーランド生まれというから"KOMEDA"を録音したときが弱冠20歳である。道理でジャケットに写っていた写真が若く見えるわけだ。現在、35歳を過ぎたところなので、これから脂が乗ってくるだろう。

@"AN DEN KLEINEN RADIOAPPARAT" 静かなバラード。あたかもアルバム全体のイントロのような曲。いつものように透明感のあるクリスタルのような響き。
A"NIGHT TRAIN TO YOU" 
WASILEWSKIのオリジナル。躍動感のあるプレイを展開するが、あくまでもクール。過度に熱くなることはない。そういえば、サウンド的にはMARTIN TINGVALLの傑作"SKAGERRAK"(JAZZ批評 473.)に似ているかもしれない。それをもっとクールに甘くした感じか?
B"FAITHFUL" 
ORNETTE COLEMANの書いた曲だが、スローなバラードというよりはフリーテンポのインタープレイといった感じか。
C"MOSAIC" 
D"BALLAD OF THE SAD YOUNG MEN" 
哀しみをたたえた美しいテーマ。かつて、JOE CHINDAMOが"THE JOY OF STANDARDS VOL.2"(JAZZ批評 118.)の中でソロ演奏しているので聴き比べてみるのも面白い。僕は、そのついでにCHINDAMOのアルバムを全編聴いてみた。やはり、いいね!聴いていて心が浮き立ってくるもの。やはり、ジャズはこれだよ。それにひきかえこのアルバムは・・・ねえ。
E"OZ GUIZOS" 
これも静かなバラード。美しいことは間違いないのだけど・・・。
F"SONG FOR SWIREK" 
G"WOKE UP IN THE DESERT" 
H"BIG FOOT" 
PAUL BLEYの曲。曲想がガラッと変わってとてもグルーヴィ。甘い饅頭ばかり食べていると辛味の効いた柿の種が食べたくなるのと一緒。
I"LUGANO LAKE"
 

このアルバムにはWASILEWSKIのオリジナルが半分の5曲入っているが、10曲すべての曲から受ける印象が似ている。ある意味、統一感があるとも言えるのだが、一方で、これがECMカラーとも言えるかも知れない。
初期のアルバム"KOMEDA"と比較してみたけど、流石に20歳当事に録音されたアルバムは一種の一徹さみたいなものがある。けれんみがないというのだろうか。荒削りだけど魂がこもっている。特に、KURKIEWICZの力強いベース・ワークが素晴らしかった。
対して、このアルバムは洗練されているというか、鋭くとんがっている部分がなくなったというか、どんどん良いところも悪いこところも削り取って平均的で没個性的なアルバムに仕上がってしまった・・・そういう感じ。
多分、レコード会社が変わったので"SIMPLE ACOUSTIC TRIO"の名前が使えなかったのだろう。画一的なモノトーンの暗いジャケットと録音バランスの悪さを含めてECMに移籍したのはMARCIN WASILEWSKI TRIOにとって本当に良いことだったのだろうか?   (2011.05.14)

試聴サイト : http://www.amazon.com/Faithful-Marcin-Wasilewski-Trio/dp/B004NDVJJG



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