MARTIN TINGVALL
買取に出した17枚のCDを集めても、この1枚のアルバムのエネルギーには及ばないだろう
"SKAGERRAK"
MARTIN TINGVALL(p), OMAR RODRIGUEZ CALVO(b), JURGEN SPIEGEL(ds)
2005年12月 スタジオ録音 (SKIP RECORDS : SKP 9057-2)

久しぶりに新宿に出た。目指すのはDISK UNION JAZZ館。17枚のCDを買取に出した。星が3つ半以下のアルバムは、恐らく、また聴くことがないと思うので買い取りに出している。たいした金になるわけではないが、これを原資として数枚のアルバムに注文を入れた。このアルバムもそのひとつ。
ネットではこのTINGVALL TRIOの第2作"NORR"が話題になっており、近々、発売になるという。その第2弾を聴く前に第1弾の評判作を聴いておこうと思った。えてして、順番を逆に聴くと落胆することが多い。そりゃあ、ミュージシャンもより良き演奏を求めて精進しているわけだから、過去よりも現在の方がいい作品に恵まれることが多いのは当然といえば当然だ。たまには、そうでない稀なケースもあるわけだけど・・・。
全14曲、全てピアニストのTINGVALLの書いた曲だ。この人もまた、コンポーザーとして素晴らしい才能を持っている。

@"SJORUP" 最初のピアノのイントロの1音からして透明度の高いクリアな演奏だ。ベースとドラムスのバランスも良くて、何かが期待できそうな出だしだ。静かなイントロから躍動感のあるアドリブへと繋がっていく。甘さに流されないハード・タッチのピアノがいいね。静と動、強と弱、疎と密のメリハリも利いている。
A"NU DJAVLAR" グルーヴ感のあるテーマ。アドリブも泥臭くていいね。ドライブ感満載で疾走する。後半に配置されたドラム・ソロもよく歌っている。テンポ・ダウンした一捻りが面白い。
B"MOVIE" 多ビートに乗って軽快にスイング。ベースもドラムスもピアノも各々が高い技量と歌心を持っている。
C"MUSTASCH" 何やらタンゴ風のメロディであるが、なかなか面白い。ここでは最初はパーカッション、中盤からドラムスに切り替えて叩いている。
D"AVSKED" 美しいテーマの後にベース・ソロが用意されているが、アコースティックな太くて逞しい音色に惚れ惚れとしてしまう。
E"NORRLAND GULD" グルーヴ感とユーモアのあるテーマ。モーダルな演奏にシフトしていくが飛び跳ねるが如くのピアノがいいね。
F"HORISONT" 
G"SKAGERRAK" 耽美的な序盤から徐々に高揚感を増してきて終わる。
H"MEDVIND" よく歌うベース・ソロが聴きもの。
I"NIMIS" イン・テンポになってからの6/8拍子が心地よい。
J"HJALTEN" これも心地よいワルツ。
K"UFO" 中盤では高速4ビートを刻む。
L"GOD NATT" スロー・ワルツの定型リズムに乗って奏でるピアノが雲間から射す光のようだ。
M"BROLLOP" 最後を締めるピアノ・ソロ。あくまでも美しい!

このトリオはドイツのグループで、このアルバムがデビュー・アルバムだという。なんとも鮮烈なデビューを飾ったものだ。まず、どの曲もテーマが良い。そして3人の足並みは磐石で揺るぎがない。分厚い演奏だ。敢えて言うなら@とAの演奏がこのアルバムの白眉だ。
アルバム全体を通しても、リリシズムとグルーヴ感を塩梅よく兼ね備えている稀有なグループという感じがする。以前、紹介したTRIOTONIC(JAZZ批評 424.)やTRIOSENCE(JAZZ批評 471.)とも少しニュアンスを異にする。買取に出した17枚のCDを集めても、この1枚のアルバムのエネルギーには及ばないだろう
デビュー・アルバムの鮮烈さに感心しながら、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。
次のアルバムが楽しみだ。その第2弾は今日、明日にも発売になる予定だ。   (2008.03.20)



独断的JAZZ批評 473.