KEISHI MATSUMOTO
アドリブっていうのは、言ってみれば、即興の作曲みたいなものだから、作曲の才能があるというのは凄い強みになるだろう
"THE OTHER SIDE OF IT"
松本 圭使(p), 小松 康(b), 福森 康(ds:Aを除く), 竪山 博樹(ds:Aのみ)
2009年12月 スタジオ録音 (A PATH IN THE MUSIC : MKT-100220)

今や、CDの購入はネット・ショップというのが定番になってしまった。昔は試聴したいがためにCDショップまで足を運んだものだが、今では、ネットで結構、試聴できるようになった。このHPでも出来るだけ試聴サイトを紹介していきたいと思っている。「百聞は
一聴にしかず」で100の説明文を読むよりは自分の耳で確かめることが一番だろう。
このCDは僕の知る限り、いつも利用することの多いcatfish recordsでしか紹介されていない。福岡と鹿児島という「同郷の好」があるのかもしれない。そう、この松本圭使は鹿児島の出身で、今も、鹿児島を拠点に九州のライヴ・ハウスを中心に活動しているらしい。このピアニスト、ニューヨークに渡り、JOEL WEISKOPFに師事し、1年後の2006年に帰国したという。
JOEL WEISKOPFといえば"CHANGE IN MY LIFE"(JAZZ批評 121.)でJOHN PATITUCCI(b)とBRIAN BRADE(ds)という猛者を従えて、質の高い演奏を残している。
松本圭使は1984年生まれ、未だ26歳だ。そういえば、今、僕が惚れ込んでいるデンマークのピアニスト、MAGNUS HJORTH(JAZZ批評 609.)も同じ26歳だ。
ACを除く全ての曲が松本のオリジナルだ。作曲においても非凡な才能を感じさせる。これもMAGNUSとの共通点だ。

@"IF IT'S YOU" 
先ず、松本の書いた曲がいいね。この若さでこういう素晴らしい曲を書けるというのは特異な才能だと思う。明るくクリアなピアノ・タッチで気持ちよくスイングしている。良い音色だ。先に紹介したMAGNUS HJORTHもコンポーザーとしての才能に溢れているプレイヤーだ。
A"WAVE" A. C. JOBIMの曲もリハーモナイズしているが違和感はない。ピアノのタッチがクリアで、それだけで素晴らしい。
B"NOTHING TO DO" 
ピアノとベースのインタープレイが面白い。この中では一番の年長と思われる小松のベースはこのグループにあってグループをきりっと統率する役割を担っている。
C"ALL THE THINGS YOU ARE" 師匠のWEISKOPFも先のアルバムで個性的な演奏をしているが、松本の演奏はクリアなタッチとセンスの良いフレーズを散りばめてよくスイングしている。多少増幅が強くてダボつき気味であるが小松のベースもピアノによく絡んでいる。この小松はバークリー音楽大学を卒業した後は山下洋輔トリオの一員となった時期もあるらしい。
D"EMPTY SPACE" 
松本のオリジナル。これも良い曲だ。
E"THE FIRST RAIMBOW" 
アップ・テンポの4ビートを刻むが松本のピアノに乱れはない。決め事もズバッと決まっていて気持ち良い。ドラムスのソロを挟んでテーマに戻る。
F"MORE THAN EVERYTHING" 
なんていい曲を書くのだろう!
G"THE OTHER SIDE" 
アルバム・タイトルにもなっている松本のオリジナル。3者のコンビネーションも素晴らしい。
H"THANKFUL"
 最後は泣かせるテーマだ。こういう曲を書き、こういうピアノを弾く奴に悪い奴はいないと確信出来る。

多分、全国レベルで見るとほとんど無名に近いピアニストだと思われる。松本圭使、要チェックである。九州だけにとどまらず活動の拠点を全国に広げて欲しいピアニストだ。
ピアノのセンスもさることながら、作曲のセンスも凄い。アドリブっていうのは、言ってみれば、即興の作曲みたいなものだから、作曲の才能があるというのは凄い強みになるだろう。
僕はこのCDを聴いて、MAGNUS HJORTHのファースト・アルバム"LOCO MOTIF"(JAZZ批評 537.)を思い出していた。いやあ、生きの良いセンス溢れるピアニストが登場したものだ。
これからもっともっと刺激的なアルバムを発表してくれるに違いないという期待感に胸躍らせて、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。応援したい若手ピアニストだ。   (2010.06.08)

試聴サイト : http://www.myspace.com/keishimatsumoto



独断的JAZZ批評 631.