SATORU AJIMINE
丁々発止のインタープレイがあるわけはないが、アンサンブルの美しさを堪能出来るだろう
同時に、原曲の持つ美しさを本当に丁寧に歌い上げている
"FOR LOVERS"
安次嶺 悟(p), 小笹 了水(b), 加納 樹麻(ds)
2009年9月 スタジオ録音 (BLUELAB. : BLR0901)


初めて聴くピアニストだ。日本人男性ピアニストをネット検索していたらYouTubeでめぐり合った。そこに掲載されていたプロモーション・ビデオでは(実際は静止画像だったが)Fの"ESTATE"が演奏されている。これがなかなか良かったのでCDを購入することにした。
この安次嶺悟というピアニストはセンスの良い腕利きの名脇役として関西を拠点として活躍しているそうだ。また、国内外のヴォーカルの名伴奏者としても長いキャリアを持っているという。1957年生まれだから齢53歳になる。しかもこのアルバムが初のリーダー・アルバムだという。

@"NEUTRAL" 
ピアニスト、安次嶺悟は、一聴して名脇役、名伴奏者ということが分かる。目立ち過ぎずに好サポートをするというタイプだ。だから、名脇役、名伴奏者という言葉に納得がいく。自分のリーダー・アルバムであり、なおかつ、サポート陣が控えめでピアノを立ているにもかかわらず、奥ゆかしさとか謙虚さを感じさせるアルバムだ。ピアノの一音一音が美しい。全曲にわたってそういう姿勢で貫かれている。
A"BELLA NOTTE" 
まるで澄みきった新緑の空気のよう。
B"AND I LOVE HER" 
このアルバムを象徴する演奏。静かに美しくて、そして、熱い。こういう演奏をされたらLENNONとMcCARTNEYも満足だろう。
C"SHELLFISH" 
軽くて明るいボサノバ調のオリジナル。
D"AVE MARIA" 
「アヴェ マリア」 穢れたものが洗い流されていくが如く。
E"EUROPE" 
からっと爽やか。唯一、昂揚感で盛り上がる。
F"ESTATE" 
美しいピアノだ。心洗われ、思わず、うっとりする。
G"YOU ARE SO BEAUTIFUL" 
牧歌的、カントリー風の癒し型。
H"NO PROBLEM" 
ピアノ・ソロ。DUKE JORDAN(JAZZ批評 48.)の書いた名曲。あくまでもナチュラルな印象を残す演奏だ。決して、コケオドシ的なプレイはしない。
I"GOIN' HOME" 
これもピアノ・ソロ。あくまでもテーマを美しく歌い上げる。アドリブらしきものはない。ジャズ的なトリオ演奏を聴きたいときはBILL MAYSの"GOING HOME"(JAZZ批評 130.)を聴けば良い。

このアルバムには顕在的な昂揚感というものがない。内省的に静かに躍動はしている。静かに熱いのだ。事実、このアルバムではベース・ソロやドラムス・ソロといったサポート陣の目立つところもない。かといって、ピアノ一人が目立っているわけでもない。3者のアンサンブルが目立っているのだ。丁々発止のインタープレイがあるわけはないが、アンサンブルの美しさを堪能出来るだろう。同時に、原曲の持つ美しさを本当に丁寧に歌い上げている。これこそ、安次嶺悟トリオの真骨頂なのだろう。
ライナー・ノーツによれば、このCDは芦屋のルナ・ホールにおいてワンポイント・ステレオ録音されている。ワンポイント・録音といえばMAGNUS HJORTHの傑作ライヴ・アルバム"SOMEDAY. LIVE IN JAPAN"(JAZZ批評 609.)が思い起こされるが、同じ手法なのだろうか?いずれ劣らぬ素晴らしい録音なのでオーディオ・ファンにも楽しんでいただけるだろう。   (2010.04.13)

試聴サイト : http://www.youtube.com/watch?v=N6Yny5rzNd4&feature=related



独断的JAZZ批評 620.