OLIVIA TRUMMER
これもほんの一里塚
驚くには当たらない
"NOBODY KNOWS"
OLIVIA TRUMMER(p, vocal), ANTONIO MIGUEL(b), BODEK JANKE(ds, percussion, tabla) , MATTHIAS SCHRIEFL(tp, f.hr)
2009年8月 スタジオ録音 (NEU KLANG : NCD4044)


OLIVIA TRUMMERの過去にレビューした2枚のアルバム"WESTWIND"(JAZZ批評 498.)と"NACH NORDEN"(JAZZ批評 517.)は、僕をして、「天は二物を与えないどころか三物をも与えた」と言わしめた才女である。すなわち、頭が良くて、美人で、しかも性格が良い(これは僕の勝手な想像ではあるが・・・)ということなのだが、このアルバムでは、さらに3つの役割をこなしている。つまり、作曲家であり、ピアニストであり、それに加えて、ヴォーカリストでもあるのだ。
まあ、恐ろしいほどの才女ではある。何しろ、まだ25歳という若さだから驚きだ。これから先、どんな風に成長していくのだろうか?
メンバーは前アルバム"WESTWIND"からベースのJOEL LOCHERがANTONIO MIGUELに変更になった。曲は全てTRUMMERのオリジナル。

@"MORGENTANZ" 
変拍子のベースをバックにいきなりTRUMMERのヴォーカルが始まる。結構澄み切った愛らしい声だ。多重録音を施しているようだ。しかし、ピアノだけでなく作曲からヴォーカルまで一級品とは、神様は罪だなあ。
A"INTRO" 
澄み切ったピアノ・ソロ。
B"NOBODY KNOWS" 
TRUMMERの歌の合間にSCHRIEFLのホーンが入る。
C"SWEETS" 
人をおちょくったような擬音化したSCHRIEFLのペットが主役。タイトルから言ってもこういう曲のコンセプトなのだろう。ピアノとペットのデュオ。
D"REFLECTION T" 
ピアノ・ソロ。
E"SEASIDE" 
途中、ヴォーカルというよりはヴォイスといった方が良い男性のヴォイスが入る。女性のヴォーカルもコーラスになっているのでこれも多重録音だろう。とても最後まで聴いていられない。
F"FALLING LEAVES" 
アブストラクトな入り方で始まり最後まで吹っ切れないプレイで終わる。
G"REFLECTION U" 
これもピアノ・ソロ。
H"ABENDROTE" 
ヴォイスかペットのミュートか良く分からない音色が入っているが、これはどうもいけない。ベースのMIGUELもフィーチャーされているが、明らかに前任のJOEL LOCHERの方が良かった。
I"WIE DIE ZEIT VERGEHT"
 この演奏はこのアルバムの中では良いね。

TRUMMERは@、B、E、Iの4曲で歌を歌っている。ヴォーカルという一面とヴォイスという一面を覗かせている。ヴォーカル入りというのは今までのアルバムではなかったことで、新たな展開と言えるかもしれない。そういう意味では、実験的な意味合いもあったのかもしれない。
SCHRIEFLにいたってはストレートにトランペットを吹いている場面は少なくて、ミュートも多用している。擬音を狙っているのか?おちょくっているのか?まさかおちょくっているわけではないのだろうが、少々やり過ぎだ。もっとストレートなプレイを聴きたかった。
それゆえか、前作のような緊迫感満載のインタープレイや躍動感が犠牲になっているようで、それが残念である。今回のアルバムのテーマは「ヴォーカルと擬音」だったのだろうか?

このアルバムは前作"WESTWIND"の素晴らしさと比べると雲泥の差だ。まあ、彼女にとってみれば、これもほんの一里塚。驚くには当たらない。試行錯誤しながら更なる高みに向かって邁進していくことだろう。   (2010.04.17)

試聴サイト : http://www.oliviatrummer.de/german/media.htm
視聴サイト : http://www.youtube.com/watch?v=V77HkLn3C3U



独断的JAZZ批評 621.