HIROSHI MINAMI
ピアノだけではなくて、文才もある
この本を読めば、さらにこのアルバムの奥深さが分かる
"LIKE SOMEONE IN LOVE"
南 博(p), 鈴木 正人(b), 芳垣 安洋(ds)
2005年〜2007年 スタジオ録音 (EWE : EWCD 0120)

前掲に続く、南博トリオのスタンダード集の第1弾。レビューの順番は逆になってしまったが、評判の高かったこのアルバムが本命というところなのだろうか?
このアルバムをゲットしてライナーノーツを読んでみたら、菊地成孔が盛んに南博の書いた著書「白鍵と黒鍵の間に−ピアニスト・エレジー 銀座編」という自伝的長編エッセイを勧めるので騙されたと思って買ってみた。

@"MY FOOLISH HEART" 
美しい出だしだ。確かに、最初の一音を聴いて心踊るものがある。銀座のピアニストとして経験した悲喜こもごもが一つ一つの音に込められているかのようだ。3者のバランスも良い。
A"LIKE SOMEONE IN LOVE" 
4ビートで刻むミディアム・テンポの心地よさ。こういう演奏を聴いているとアルコールが一杯欲しくなる。最後には"SATIN DOLL"の一節なんかも入ったりしている。
B"SOLAR" 
今度はアップ・テンポで4ビートを刻んでいく。鈴木のベース・ワークも芳垣のドラミングも利いている。やはり、こういうドライブ感のある曲が入っているとアルバムがギュッと締まる。
C"MISTERIOSO" 
T. MONKの曲。グルーヴィだけど、どこかひょうきん。
D"HOW INSENSITIVE" 
今度はA. C. JOBINの曲だ。このアルバムでは前掲の第2弾に比べて3者の緊密感、一体感が良いね。
E"EIDERDOWN" 
これはSTEVE SWALLOWの書いた曲だ。このSTEVE SWALLOWはベーシストとしてはもとより、作曲家としても名を馳せている。古くはGARY BURTON,"DUSTER"(JAZZ批評 74.)の中で"GENERAL MOJO'S WELL LAID PLAN"という素晴らしい曲も提供しているので参考まで。ここでは生き生きとした鈴木のベース・ソロが聴ける。
F"CHELSEA BRIDGE"
 スタンダード集の最後の曲はBILLY STRAYHORN。ピアノのイントロからベースとドラムスが絡むその瞬間が良いね。

やはり市場で評判を取っただけのことはあって、このアルバムは第2弾に比べるとズット良いと思う。まず、3者の一体感があるし、バランスも良い。それと選曲も良いのでアルバム全体を通してみてもメリハリがあって飽きさせることがない。
ところで、先に紹介したエッセイであるが、僕はあまりの面白さに1日で読み終えてしまった。最近読んだ本の中でも一番、面白かった。下手な「本屋さん大賞」の本よりもズット面白かった。この本を読んだ後で聴く南の演奏にはある種の感動を覚える。
この本では、南が東京音楽大学の器楽科打楽器専攻を卒業したその背景が明らかにされる。そして、その南がジャズの修行にアメリカのバークリー音楽大学に留学するまでの日常とその奮闘振りが描かれている。音楽を志した人なら誰でも楽しく読めるに違いない。僕は続編の「鍵盤上のU.S.A−ジャズピアニスト・エレジー アメリカ編」をすぐさま注文し、これから読むところだ。
ピアノだけではなくて、文才もある。この本を読めば、さらにこのアルバムの奥深さが分かるということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2010.04.10)

試聴サイト : http://www.ewe.co.jp/archives/2008/04/like_someone_in_love.php



独断的JAZZ批評 619.