DAVID KIKOSKI
世の中上手くいかないもので、期待が大きすぎると失望も大きくなるという好例だ
"MOSTLY STANDARDS"
DAVID KIKOSKI(p), ERIC REVIS(b), JEFF 'TAIN' WATTS(ds)
2008年6月 スタジオ録音 (CRISS CROSS : 1312 CD)


先日、レビューを書いたばかりの"LIVE AT SMALLS"(JAZZ批評 610.)はライヴの録音が少々オフ気味でいただけなかったが、演奏そのものは良かった。ならば、もう1枚検証してみようということでゲットしたのがこのアルバム。録音時期もほぼ同じ。遡ること5ヶ月前の2008年の6月。
メンバーは、ベースのHANS GLAWISCHNIGがERIC REVISに代わり、ドラムスのOBED CALVAIREがJEFF 'TAIN' WATTSに代わっている。

@"GREY AREAS" 
ベースの定型パターンで始まるKIKOSKIのグルーヴィなオリジナル。ここで奏でられるKIKOSKIのピアノはどちらかというと華麗にして繊細。テーマとのミスマッチが面白いといえば面白い。
A"BLUES ON THE CORNER" 
こういうブルースにおいても泥臭さよりもスマートさが優先されている感じで迫力不足の感は否めない。対して、WATTSの12小節交換は迫力満点だ。
B"OLD FOLKS" 
スロー・バラードのスタンダード。何とも普通の演奏ではある。
C"CHANCE" 
前曲に続いてピアノのバラード演奏で始まる。KIKOSKIはむしろ内省的なピアニストではないかと思ってしまう。徐々に昂揚感を増していくが、ピアノが熱く鍵盤を叩くということはない。
D"DOXY" 
いかにも緩いなあ。テーマ演奏からして「のどか!」ってな感じで、緊張感とスリリングな展開は期待できない。この"DOXY"なら山本剛の"SPEAK LOW"(JAZZ批評 606.)の中にあるそれの方が数段素晴らしい。最近聴いた"DOXY"ではAKIKO GRACEの"GRACEFUL VISION"(JAZZ批評 493.)が秀逸。スリリングで緊張感に包まれている。
E"TBS" 
豪腕WATTSが書いた曲にしてはメロディアスな美しいテーマ。KIKOSKIのピアノはメリハリもなく、なんとなく終わってしまう。後半にREVISのベース・ソロが配置されているが印象に残らないプレイだ。
F"AUTUMN LEAVES" 
フリーなベース・ソロで始まるが、3分半以上続くこの演奏が詰まらない。4分近く経ってからやっと高速のテーマに入るが高速テンポというだけで味も素っ気もない。この速さでも鍵盤を弾けるというのは凄いけど、その速度のどつぼに嵌った印象を拭えない。
G"LEAVES" 
ピアノ・ソロ。もう少し「間」があると良いと思うけど・・・。後半にはBRAD MEHLDAUのソロ・アルバム、"ELEGIAC CYCLE"(JAZZ批評 278.)をぱくったようなフレーズが散見される。

このアルバムでは、DAVID KIKOSKIはバップ・テイストのピアニストという印象はない。むしろ、モーダルで内省的なプレイヤーという印象を持った。これはスタジオ録音に起因することもあるかもしれない。"LIVE AT SMALLS"のプレイほど熱くないし、メンバー的にもHANS GLAWISCHNIGとOBED CALVAIREの組み合わせのほうが今回のメンバーよりも相性が良いように思う。少なくとも、ベースはHANS GLAWISCHNIGのほうが断然いいね。
"LIVE AT SMALLS"のKIKOSKIの演奏に好感触を得ていたので、このアルバムには期待するものが大きかった。世の中、上手くいかないもので、期待が大きすぎると失望も大きくなるという好例だ。かと言って、これを中古市場に売り飛ばしてしまうほど悪くもない。ということで、今回は星4つ。   (2010.03.15)

試聴サイト : http://www.cduniverse.com/productinfo.asp?pid=7814238



独断的JAZZ批評 613.