EIJI NAKAYAMA
ピアノは「刺身のつま」
"CONVERSATION"
DON FRIEDMAN(p), 中山 英二(b)
1986年4月 スタジオ録音 (AMJ : ABCJ-499)


今までにDON FRIEDMANのアルバムは11枚ほどレビューを書いている。僕の好きなピアニストの一人なのだが、世間の評価はあまり高いとは言えない。すぐにBILL EVANSと比較されてしまうことがこのプレイヤーの不幸だ。FRIEDMANが若いころにSCOTT LAFARO(b)と一緒にアパート生活をしていたこともそういうことの遠因になっているかもしれない。
僕にとってこのアルバムは1978年の傑作"LATER CIRCLE"(JAZZ批評 550.)から1995年のイタリア録音の傑作"THE DAYS OF WINE AND ROSES"(JAZZ批評 55.)までの17年の空白を埋めるアルバムと言っても良いだろう。
ライナー・ノーツによれば、このデュオによる全国ツアーが16ヶ所でミニ・リサイタルという形で行われたという。中山英二というベーシストは初めて聴くが、当時、50歳のFRIEDMANに対して13歳若い37歳であった。で、このアルバムは中山英二のリーダー・アルバムという位置づけのようだ。また、ディスコグラフィーによれば翌年にも2枚のレコーディングを残している。

@"MOUNTAIN AND EARTH" FRIEDMANのイントロに続いて入ってくる中山のベース音が僕は嫌いだ。左手をスライドして一見して伸びやかな音のように聞えるが不確かな音程を確保する弾き方でもある。こういう弾き方がいやっというほど出てくる。緩めの弦を思いっきり弾いているのでビートはあるけど音色がダボついている。更に、リーダーとしてのイニシアティブをとるものだから余計に目立つ。ベースが主体になったデュオである。
A"A SONG FOR CHILDREN" 
ここでもベースがテーマを弾く。
B"DOXY" 
ピアノとベースのユニゾンでテーマが始まる。中山のベース・ソロはギターのように弾くことを目指しているかのようだが、あれこれやり過ぎてもたついている。それは兎も角として、FRIEDMANがノリノリのピアノプレイを聴かせてくれる。
C"MEMORIES OF SCOTTY" 
SCOTT LAFAROに思いを寄せたFRIEDMANのオリジナル。少々ジャズ風ド演歌の匂いがする。中山がアルコでテーマを執る。
D"AUTUMN DUST"
 これもFRIEDMANのオリジナル。これは良い曲だ。
E"IN YOUR OWN SWEET WAY" 
ベースが前へ前へと出てくるのでピアノが遠慮気味。2者の丁々発止のインタープレイという感じはない。どちらかというとベースのワンマン・プレイという感じだ。
F"I FALL IN LOVE TOO EASILY"
 ここでもベースがテーマを執る。ベースという楽器は音程をとるのが非常に難しい。左手のポジショニングでいくらでも音程が変わる。ピアノやフレットのあるギターのように正しい音程が確保されているとは限らない。しかし、リスナーにとっては音程が正しくて当たり前だ。だから、テーマなどのメロディ・ラインを弾きながら、さらに、リスナーの耳を満足させることは非常に難しい楽器だ。中山は果敢にチャレンジしてギター並みのプレイにトライをしたのだろうけど、残念ながら・・・と言わざるを得ない。もっとも、この時代、ベースをギターのように弾くことがあっちこっちで流行ったからなあ。

ピアノとベースとのデュオにも拘らず、ベースのワンマン・デュオである。DON FRIEDMANのピアノを主体に聴きたいと思っている人には、FRIEDMANが遠慮がちに聞え満足度は低いかもしれない。全編にわたって中山のベースが過分なほどにフィーチャーされているし、中山自身もベースをギターのように弾きたいと思っているようだ。"CONVERSATION"というタイトルような一体感や緊密感のある「対話」という感じはしない。良い意味でも悪い意味でもベースが主役ででしゃばり過ぎ。それゆえ、ピアノは「刺身のつま」。それを理解して購入すべきだろう。   (2010.03.19)

試聴サイト : 
http://www.youtube.com/watch?v=K9lGQphqvbc



独断的JAZZ批評 614.