KOJI GOTO  (the EROS)
「剛」の岡田、「キレ」の江藤をサポートに、後藤のピアノは「静」と「激」だった
"QUIET THRILL"
後藤 浩二(p), 岡田 勉(b), 江藤 良人(ds)
2009年3月 スタジオ録音 (KUKU LABEL : KUKU-0004)


MAGNUS HJORTHから4枚続けてのライヴ・ハウスでの録音盤である。
日本人ピアニストの中で後藤浩二はお気に入りの一人だ。最初にあたった2004年録音の"AZUL"(JAZZ批評 277.)は意欲的でありながら爽やかな印象が良かった。
続いて、2006年録音の"HOPE"(JAZZ批評 465.)ではベースにLARRY GRENADIER、ドラムスにHARVEY MASONを迎えて、「ジャズを聴いていて本当に良かった」と思わせるアルバムだった。
あれから3年、今度は岡田勉、江藤良人と3人で"the EROS"という意味不明なグループを結成した。ライナー・ノーツによれば、このグループは2003年ころから活動を開始し、3〜4ヶ月に1回程度のペースで演奏を重ねてきたらしい。にもかかわらず、このCDは満を持しての初アルバムであるらしい。

@"THE FOOL ON THE HILL" このビートルズ・ナンバーが実に良いのだ。自分たちの中で見事に消化し、新たな味付けが施されている。岡田の太いベース・ソロも良く歌っているし、多彩なドラミングを見せる江藤も素晴らしい。そういえば、2008年のベスト・アルバムの1枚と僕が選定した名盤、CHICK CORE & HITOMI UEHARAの"DUET"(JAZZ批評 467.)の中でも演奏されているが、これも素晴らしいデュオなので是非、聴き比べて欲しい。この曲、意外とジャズに良く似合う。
A"SAY NOTHING AT DAWN" 
いきなり始まる岡田のベース・ソロが逞しい。このベーシストにはチマチマとしたことは要求したくない。この太さ、この逞しい音色が良いのだ。この岡田をサポートする後藤のピアノと江藤のドラムスはあくまでも主役を引き立てることに徹している。続く後藤のピアノがまた泣かせる。
B"SHIROKO" 
一転して、軽快なボサノバ調。
C"THE RAINY DAY" 
前曲に続く江藤のオリジナル。このドラマー、なかなかのメロディ・メーカーでもある。しっとりとしたバラード。静から動へ熱く昂揚感を増していく。まさにアルバム・タイトルになった「静かなる戦慄」が味わえる。この曲、このグループのテーマ曲でもあるらしい。
D"WORDS AND MOOD" 
Aに続く岡田のオリジナル。ハード・タッチの演奏がぐいぐい進んでいく。岡田と江藤の堅実で熱いサポートに乗って後藤のピアノが気持ちよい。江藤のドラム・ソロも迫力満点。これはいいねえ。
E"MY ONE AND ONLY LOVE" 
僕の好きなスタンダード・ナンバーのひとつ。後藤の奏でる協和音と不協和音が交錯するハーモニーが美しい。こういう曲では後藤の個性がきらりと光る。特に、4ビートを刻みだす後半部分では唸ってしまうね。いつの間にか、指が鳴っているもの。
F"CANTABILE"
 MICHEL PETRUCCIANIの書いた曲で8ビートで演奏。グルーヴィに盛り上がって終わる。

4枚連続でレビューした小さなジャズ・ハウスでのライヴ録音盤。やはり、日本録音のMAGNUS HJORTHとこのthe EROSが圧倒的に録音も演奏も素晴らしかった。
日本にはこんなにも素晴らしいジャズがある。もっともっと目を向けないといけないなあと思いつつ、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。  

で、僕は今夜(3月8日)、このthe EROSのライヴを聴きにお茶の水"NARU"に行ってきた。このアルバムの曲を中心に"MILESTONES"や"CHERYL"、"BODY AND SOUL"などが演奏された。やはり、今回も「ジャズはライヴ・ハウス」だと思った。「剛」の岡田、「キレ」の江藤をサポートに、後藤のピアノは「静」と「激」だった。多分、これが本当の姿でしょう。37歳の後藤、36歳の江藤に混じって61歳の岡田が「激」を演出する。これはとてもとても刺激的だった。    (2010.03.09)

試聴サイト : http://www.youtube.com/watch?v=NABKJtQ3pnk



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独断的JAZZ批評 610.