後藤 浩二
意欲的であると同時に、変に、媚びたところがなくて爽やかな気分にさせてくれる
"AZUL"
後藤 浩二(p), 島田 剛(b), 黒田 和良(ds)
2004年12月 スタジオ録音 (SWING CAT'S RECORDS SCAT-2005 ) 

僕はこのピアニストを初めて聴いた。それはある目的を持って行った、渋谷のHMVであった。目指すピアノ・トリオのアルバムが店頭に置いてなかった。ネットでは新譜入荷となっているにも拘わらず。折角、時間を割いてやってきたのであるから何かお土産を持って帰りたいと思い、隈なくピアノ・トリオのアルバムを試聴して回った。
そうやって見つけた、全曲、後藤のオリジナルで固めたという意欲作だ。最近は売れ線狙いでスタンダード・ナンバーのオン・パレードというアルバムも珍しくなくなっているご時世だ。日本プロデュースのアルバムで全曲オリジナルというのは聴いてみるだけの価値はあるに違いないと思った。ジャケットの帯に「Jazzを超えたJazz スタンダードを超えるオリジナル」とあった。

結論を言おう。全編オリジナルで固めただけあってなかなかの意欲作だと思う。宣伝コピーにあるようにオリジナルにセンスがある。テーマとしての美しさとメロディックな曲がある一方で、躍動感溢れるスウィンギーな曲も配置されている。これらの曲の良さを認識するためにも、何回も聴きこんで欲しいアルバムである。

@"PURE LOVE 〜 SOLO" 
A"EVENING NEWS" 高速ハード・ドライブ。ベースの4ビートが気持ち良い。ベースが唸り、ドラムスが咆え、ピアノが歌う。
B"PRICESS ANNE" 曲名の如く、あのイギリスの「アン王女」を歌ったのであろうか?美しいメロディ・ラインとともに忘れてならないのがワルツのリズムでしょう!壷に嵌っている!

C"FLAMENGO 〜 FOR ZICO" 今度はジーコだ!軽快なラテン・リズムに乗ってサッカーボールがくるくる回る。
D"UTAKATA" 物憂いピアノのイントロから一転、スウィング感のあるテーマへと入っていく。ベース・ソロを挟んで躍動感のある4ビートが展開される。けれんみのない演奏に拍手。これも良い曲だ。
E"INNOCENT TIMES" 
F"EAR CANDY" 出だしのベースの音程がちょっと、ね。でも、ベースの音が非常に良い。太くて逞しい音色だ。それに比べてピアノの音が少し線の細い金属的な響きだ。もう少しふくよかな音が僕の好みだ。それが惜しい。

G"DEAR ROMMEL" 机を叩く、指を鳴らす、足を踏み鳴らす、鉛筆をスティック代わりに叩いてみる・・・そんな風にして聴いて欲しい曲だ。
H"AZUL" 
I"PURE LOVE 〜 TRIO" 最後を締める美しいバラード。

プロデュースする側では2〜3曲はスタンダード・ナンバーを入れて保険を掛けたくなるのだろうけど、全曲オリジナルで徹した、その勇気に敬意を表しよう。
このアルバムは意欲的であると同時に、変に、媚びたところがなくて爽やかな気分にさせてくれる。また、このトリオにはこれからの期待感がある。ユニットとしても更に熟成していくだろう。楽しみなピアニストが現れたものだ。   (2005.06.26)



独断的JAZZ批評 277.