CHICK COREA
上原のアグレッシブで攻撃的な演奏はCOREAをして、若かりしころの原点を触発したのかもしれない
そしてそのことが何十年と封印されていたCOREAの瑞々しいピアノ・プレイを誘発したのかもしれない
"DUET"
CHICK COREA(p), 上原ひろみ(p),
2007年9月 ライヴ録音 (STRETCH : UCCO-9181)

1ヶ月ほど前のことだが、YouTubeを見ていたら、このC. COREAと上原ひろみのデュオが投稿されていた。そこでは"SUMMERTIME"や"SPAIN"が演奏されていた。出所が不明だが、多分、「東京ジャズ・フェスティバル 2006」のビデオに違いない。その演奏に僕は痛く感動した。そして、このアルバムを購入した。

結論を先に言おう。このアルバムは素晴らしい!ジャズを愛する人なら誰もが感動し、賞賛するであろうアルバムに違いない。何といっても、COREAのピアノに瑞々しさが甦っている。一音一音が息づいて聞こえる。"NOW HE SINGS, NOW HE SOBS"から待つこと40年。待望の傑作が誕生したと言い切ろう。瑞々しくも美しいピアノタッチ、緊密感と緊迫感の溢れるスリル満点の展開、不協和音と協和音の妙、躍動し息をもつかせぬインタープレイ、どれをとっても素晴らしい。ここにはジャズの醍醐味がギューっと凝縮している。心から惜しみない拍手と賛辞を贈りたい。

CD 1.
@"VERY EARLY"
 (BILL EVANS)
A"HOW INSENSITIVE" 
(VINICIUS DE MORAES-ANTONIO CARLOS JOBIM)
B"DEJA VU"
 (HIROMI UEHARA)
C"FOOL ON THE HILL" 
(LENNON - MACCARTNEY)
D"HUMPTY DUMPTY"
 (CHICK COREA)
E"BOLIVAR BLUES" 
(THELONIOUS MONK)

CD 2.
F"WINDOWS" 
(CHICK COREA)
G"OLD CASTLE, BY THE RIVER, IN THE MIDDLE OF A FOREST" 
(HIROMI UEHARA)
H"SUMMERTIME" 
(G. & I. GERSHWIN - D. HEYWARD)
I"PLACE TO BE " 
(HIROMI UEHARA)
J"DO MO" 
(CHICK COREA)
K"CONCIERTO DE ARANJUEZ / SPAIN" 
(JOAQUIN VIDRE RODRIGO / CHICK COREA)

全12曲。どの曲も甲乙点け難い快演である。
競演の上原ひろみは1979年生まれの未だ28歳。今後が楽しみなピアニストだ。願わくば、今後はジャズの王道を歩んで欲しい。以前に紹介した"ANOTHER MIND"(JAZZ批評 146.)の延長線にならないことを祈りたい。
左チャンネルのCOREAに対して右チャンネルの上原は、若干、ピアノのタッチが弱い。付録のDVDに写る両者の指を見れば、それも詮無いことだ。それでもベテランCOREAに対していかほども臆することなく力いっぱいの演奏をしたのは賛辞に値する。
その上原に対して、そのネームバリューの大きさとジャズ界の常に先頭を走ってきた実績で「お山の大将」だったCOREAが気配りと配慮の利いたプレイをしているのだ。まるで、自由に泳ぎまわる上原を慈しむように優しくフォローしているのだ。
上原のアグレッシブで攻撃的な演奏はCOREAをして、若かりしころの原点を触発したのかもしれない。そしてそのことが何十年と封印されていたCOREAの瑞々しいピアノ・プレイを誘発したのかもしれない。
待望久しいCHICK COREAの瑞々しいアルバムが発売になりこんなに嬉しいことはない。願わくば、次のアルバムもこの瑞々しさを失わないで欲しいものだ。幸せな気分に浸りながら、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。
ところで、4月末にはこのデュオの再現があるそうだが、日本武道館での1回公演ではねえ。   (2008.02.10)



独断的JAZZ批評 467.