IGOR PROCHAZKA
これからの伸び代に期待しよう
"EASY ROUTE"
IGOR PROCHAZKA(p), CHRISTIAN PEREZ(b), FEDERICO MARINI(ds)
2008年2月 スタジオ録音 (JAZZMADRID : JM-0001CD)


何ヶ月か前に話題になったスペインのピアノ・トリオだ。その当時は購入しなかったが、最近、また出回ってきたので購入してみた。
スペインのトリオというのは日本人の感性に合うのかもしれない。「南欧発、硬派のジャズ」としてかつて紹介したMARTI VENTURAの"PAS DEL TEMS"(JAZZ批評 287.)もいいし、リリカルなプレイのINAKI SANDOVALの"SAUSOLITO"(JAZZ批評 401.)もいい。盲目のピアニスト、IGNASI TERRAZAの"IT'S COMING"(JAZZ批評 192.)あたりもスペインを代表する秀逸なアルバムだった。いずれも5つ星を献上しているし、何かことある毎に引っ張り出しては聴いている。
今回、このアルバムを聴いてみて、MARTI VENTURAのトリオにサウンドが近いと思った。

@"HOPE" 
太くてビートの強いベースをバックにピアノがスカッとしたテーマを奏でる。やはり、ベースはこうでなくちゃあ!最後はピアノとベースのリフをバックにドラムスが踊っている。
A"EASY ROUTE" 
「ワン・ツー・ワン・ツー・スリー・フォー」の掛け声とともにミディアム・テンポの4ビートを刻んでいく。テーマの後にドラムスのソロが続くが、この叩きっぷりが気持ちよい。続くベース・ソロも太い強靭な音色だが、若干、だれる。
B"LACK OF INTELLIGENCE" 
ベースの土の匂いのする定型パターンに乗ってドラムスが跳ねるが、主役のピアノはあくまでも繊細だ。泥臭いサポート陣に比べてピアノの毛色が違う感じ。
C"OBSCURE BLUES" 
このブルースがもうひとつ面白くない。エンディングもすっきりしない。
D"CORRYVRECKAN" 
ベースとピアノのユニゾンで始まるが、途中からベースがリズミックなパターンを繰り返す。ここでのピアノは切れがあっていいね。
E"SPINNING" 
今度は威勢の良い8ビートで始まる。先ず、テーマがいいね。3者の一体感もあり昂揚感もある。このアルバムのベスト・チューンかな?
F"A LOVE BOAT SUPREME" 
ミディアム・ファーストの4ビートを刻む。全体を通しても言えることだけど、「熱くないんだなあ」 もっともっと熱くなれるはず・・と思ってしまう。

率直に言って、ピアノにはもっとガシガシいってほしいね。なんとなくベースに依存しているようで3者の昂揚感みたいなものが醸成されていない。泥臭いサポート陣がいる割には冷めているというか、お行儀が良いというか・・・。殻を突き破れていない感じなのだ。
タイプとして似ている前述のMARTI VENTURAとはここが大きく違う。VENTURAの音楽には型破りなダイナミズムがあるもの。比較するのもなんだが、もし、南欧発の硬派のジャズを聴きたいと思うなら、断然、VENTURAの"PAS DEL TEMS"(JAZZ批評 287.)の方を勧めたい。その中にあるスタンダード・ナンバー、"MY ONE AND ONLY LOVE"と"NATURE BOY"の解釈は秀逸だ。
・・と、脱線してしまったが、IGOR PROCHAZKAのこれからの伸び代に期待しよう。   (2009.09.12)

試聴サイト : http://www.myspace.com/igorprochazka



独断的JAZZ批評 580.