独断的JAZZ批評 572.

MARTIN BRUNNER
トリオを結成して2年ではさもありなんという気もするが・・・
"BEHIND THE CLOUDS"
MARTIN BRUNNER(p), MARTIN KAPUSNIK(b), PETR MIKES(ds)
2009年2月 スタジオ録音 (ARTA : F10176)


MARTIN BRUNNERはチェコのピアニストだという。そして、このトリオは2007年に結成されたブループだという。
昔、チェコスロバキアといった国は1993年にチェコとスロベキアに分離独立した。チェコというと思い浮かべるミュージシャンがベーシスト、VIT SVECだ。VIT SVECはクラッシックの薫陶を受け正確無比な技術とジャズ・マンらしいエモーションを兼ね備えた素晴らしいプレイヤーのひとりだ。例の「鯨の尻尾」で有名になった"KEPORKAK"(JAZZ批評 245.)や"TRIO '02"(JAZZ批評 126.)はその代表作だ。
「鯨の尻尾」でピアノを弾いていたMATEJ BENKO(JAZZ批評 391.)とこのMARTIN BRUNNERはピアノのスタイルが似ている。同じ国の出身ということで微妙に影響を受けているのかもしれない。因みに、これら3枚とこのCDは同じ"ARTA"からの発売となっている。

@"ALONG THE YELLOW PATH" 
多ビートのドラムスのプレイでスタートする。ピアノのプレイは決して軽くはない。十分な重厚感がある。と、思えばリリカルなスロー・テンポのピアノ・プレイもある。このピアニストもまた、甘さだけに流されない心棒が貫かれている。最近のヨーロッパのピアニストにはこういうタイプが増えてきたことは喜ばしい。前作のSEBASTIAN GAHLERにも共通するタイプだ。これにアンサンブルの妙が加われば更に言うことなし。
A"BOWLING CLUB" 
ここではエレキ・ベースを採用している。ジャケットの写真を見ると3人とも見るからに若い。8ビートにエレベというのも分かるような気がする。
B"RECALLING THYME'S SCENT" 
叙情的なメロディだが、中盤で間延びしてだれる。
C"ESPRESSO" 
D"PHOTO FROM THE FAMILY ALBUM" 
そうそう、このピアノの弾き方なんかは先のMATEJ BENKOに似ていると思うのだけど、BENKOほどの華がない。そういう意味ではまだまだこれからのピアニストという感じがする。アンサンブルを見たときにも、やはり、十二分にコミュニケーションがとれて互いの能力を十分に引き出しているというレベルには達していない。一体感が不足しているからプラス・アルファが生まれてこないのだ。
E"WHIRLWINDS" 
こういう演奏にアンサンブルの分厚さが加われば本物なのだが・・・。
F"BEHIND THE CLOUDS" 
もって回った演奏が煩わしい。スカッとしないのだ。
G"DAVE'S DIRTY DOG" 
いかにもモゴモゴしたエレベが合いそうなテーマ。ピアノの乗りに比べてドラムスが単調で詰まらない。しかし、ベース・ソロに続くBRUNNERのピアノ・プレイはMATEJ BENKOを彷彿とさせてなかなかいいね。
H"SONG" 
ベースのKAPUSNIKはアコースティック・ベースを弾いているときの方が数段素晴らしい。良く歌うし、技量もある。あえてエレベを弾く必要はないね。全曲、アコースティックで通してもらいたかった。
 
このアルバム、全ての曲がBRUNNERの手によって書かれている。意欲的なアルバムであるとは思うが、トリオの熟成度という点で満足というところまでには達していない。トリオを結成して2年ではさもありなんという気もするが・・・。
個々のプレイヤーにはまだまだエモーションが足りない。頭でっかちだと言わねばならない。ピアノとベースの出来に比べてドラムスが今ひとつ引き立ってこない。そういったことが修正されてくると面白くなってくるだろう。このピアニストも母国のVIT SVEC(b)なんかとプレイできたら、これは素晴らしい経験になるに違いない。   (2009.08.07)

試聴サイト : http://www.myspace.com/martinbrunnertrio