独断的JAZZ批評 573.

JUNKO ONISHI
Iの演奏を聴いて、「大西順子、健在なり!」と思った
"MASICAL MOMENTS"
大西 順子(p), 井上 陽介(b), GENE JACKSON(ds),
IのみREGINALD VEAL(b), HERLIN RILEY(ds)
2009年4月 スタジオ録音, Iのみ2008年9月 ライヴ録音 (SOMETHIN' ELSE: TOCJ-68085)


久しぶりの大西のアルバムを聴いて、昔もこんな風に弾いていただろうか?という疑問が湧いてきて1992年録音の"WOW"(JAZZ批評 116.)を聴いてみた。女性離れした強いピアノ・タッチとアーシーな演奏は、時に、MONK的なアプローチも見せたりして朴訥さとグルーヴ感を内包している・・・そういう印象だった。
翻って、このアルバムはどうだろう?前述の印象とは若干印象を異にする。そりゃあそうだろう!1992年の録音から17年の歳月が流れているだから。変わって、当たり前。変わらなければ化石みたいになっちゃう。

@"HAT AND BEARD" 
ERIC DOLPHYの書いた個性的なテーマで始まる変拍子。フリーなアプローチではJACKSONの饒舌なドラミングが目を引く。
A"I GOTTA RIGHT TO SING THE BLUES" 

B"BACK IN THE DAYS" 
アップ・テンポを刻む大西のオリジナル。朴訥という印象よりは流麗にして多弁という印象を持った。併せて、JACKSONのドラミングも十分以上に饒舌で、これが良かったのかどうか?
C"BITTERSWEET" 
井上の定型ベース・パターンに乗ってピアノが歌ってる。こいつぁいいね!
D"ILL WIND" 
スタンダード・ナンバーをピアノ・ソロ。ソロということもあるのだろうここでの大西は十二分に多弁だ。
E"MUSICAL MOMENTS" 
これも大西のオリジナル。
F"SOMETHING SWEET, SOMETHING TENDER" 
G"G.W." 
@、Fに続くERIC DOLPHYの楽曲。
H"SMOKE GETS IN YOUR EYES" 
スタンダードをソロで。

I"SO LONG ERIC〜MOOD INDIGO〜DO NOTHIN' TILL YOU HEAR FROM ME" この曲はボーナス・トラックで、16分19秒にも及ぶ2008年9月の青山ブルー・ノート東京でのライヴ録音。まあ、この演奏の凄いこと!なんで、これがボーナス・トラックなのだと疑問が起きるほど。全てをこのライヴ演奏で埋めた方が数段良かった。ここではライヴならではのブロー気味で過激、なおかつ、スリリングな演奏が聴ける。まさに、ライヴの醍醐味が凝縮して詰まっている。この演奏を聴いてしまうと、先のスタジオ録音9曲が陳腐に聴こえてしまう。これは罪だなあ!
ベースとドラムスの丁々発止のやり取りも花を添えている。こちらの方がベースもドラムスも一枚上手だ。しかも、3人のアンサンブルが見事。胸がスーッとした。この演奏を聴いて、「大西順子、健在なり!」と思った。


実際に大西が活動を休止したのは2000年から2005年の間というから、そんなに長くはない。しかし、リスナーの想いとしては十年以上も休んでいたのではないかという想いがある。このアルバムの帯にも「11年ぶり、驚きの最新作!!」とあるから、アルバムとしては10年以上が経っていたのだろう。

このアルバムでは圧倒的にIの演奏が良い。この曲だけのために買ったとしても損はしないだろう。因みに、僕はこの曲だけのために5つ星を献上し、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。あとの9曲は蛇足といったら言い過ぎだろうか?   (2009.08.08)

試聴サイト :
 http://listen.jp/store/album_5099968636654.htm