PHIL AARON
世の中の最高のピアノ・トリオのプレイからすると少々物足りないが、このグループとしては最高プレイという範疇かもしれない
"I LOVE PARIS"
PHIL AARON(p), TOM LEWIS(b), JAY EPSTEIN(ds)
1994年5月 スタジオ録音 (IGMOD RECORDS : IG-49402-2)


このアルバムは最近、どのネット・ショップでも掲載されている話題のアルバムだ。何でも、この手のジャズ掘り起こし雑誌に掲載され、話題になったアルバムの再発ということらしい。多少の希少価値があれば、それに飛びつく業界の貧しさが反映されたアルバムのようでもある。
結論から言うと、このアルバムは悪くはないと思う。でも、物足りなさが残ってしまうのだ。ひとつの枠の中での最高プレイなのかもしれない、が、ここにはチャレンジ精神が見当たらない。実に真っ当で面白みがない。いわば、毒がないのだ。のるかそるかのきわどさがない。安全パイなのだ。
だから、大きな失敗をしたとも思わないのだが、何か寂しい気がする。事実、僕も中古市場へ「おさらば!」という気にまではなれない。まあ、とりあえず、置いておこうかと・・・。そういうアルバムだ。
それに引き換え、最近、レビューに加えたCHOLET-KANZIG-PAPAUX TRIO の"UNDER THE WHALE"(JAZZ批評 512.)や"BEYOND THE CIRCLE"(JAZZ批評 514.)などは実に個性的だし、彼らのアイデンティティを感じさせる。なおかつ、緊張感や躍動感に裏打ちされているので、レビューする側にものるかそるかの決断を要求される。

@"IT COULD HAPPEN TO YOU" 
1コーラス、ピアノソロで始まり、2コーラス目はトリオ演奏。軽いピアノのタッチが耳に心地よい。
A"OLD WORLD BLUES" 
哀愁のある日本人好みのテーマ。高音部のシングル・トーンを巧みに使って心地よさを演出している。
B"I LOVE PARIS" 
以下、全編に心地よさが溢れている。実に爽やかで気持ちのよいトリオである。これは間違いない。別に難癖をつけるつもりはないが、これはこれでひとつの音楽だと思う。たまたま僕の心に響かなかったというだけで、このアルバムを推す人も多いと思う。リラックスしたいとか寛ぎたいとかいう時にはもってこいのアルバムだと思う。一方、毎日、新しい掘り出し物はないかと物色しているジャズ・マニアにとってはやや甘い。もうちょっと辛口の味付けが欲しかった。
C"I LOVE IN VAIN" 
D"FIREFLY WALTZ" 
PHIL AARONの曲。長めのドラムスのソロの後に可憐なワルツが続く。
E"HARD BALL" 
この曲もAと同様にベーシスト、TOM LEWISの書いた曲だ。なかなかいい曲だと思うし、演奏も乗っている。
F"SKYLARK" 
スタンダード・ナンバー。実にいいテーマだ。
G"CON ALMA" 
H"STELLA BY STARLIGHT" 
I"CALIFORNIA SONG" 
これもピアニストPHIL AARONの書いた軽い乗りの曲。
J"ALL THE THINGS YOU ARE" 


ほとんど無名のプレイヤーが1枚だけ良いプレイをしてしまったという範疇かもしれない。事実、そのほかのアルバムの名前を聞いたことがあるどころか、このプレイヤーの名前すら初めて聞いたという状態なのだから。
この手のアルバムは結構あって、JOE KIENEMANN "INTEGRATION"(JAZZ批評 503.)やMIKE PETRONE "A LOT LIKE US"(JAZZ批評 496.)などもその手のアルバムだ。
世の中の最高のピアノ・トリオのプレイからすると少々物足りないが、このグループとしては最高プレイという範疇かもしれない。従って、心地よいスイング感に満ちていて、捨ててしまうには惜しいものを持っている   (2008.11.30)



独断的JAZZ批評 515.