独断的JAZZ批評 496.

MIKE PETRONE
こういうアルバムは希少価値のままでいったほうが所有している人にとっても、これから手に入れる人にとってもハッピーだろう
"A LOT LIKE US"
MIKE PETRONE(p), MARTIN BLOCK(b), ROY KING(ds)
1996年8月 スタジオ録音 (1996 GOBLIN BEE RECORDS : GB 2228)

このアルバム、レア本掲載アルバムの中でも入手が困難ということでオークションでも高値を呼んでいたアルバムらしい。300枚限定の再々プレスということだったので便乗してみた。
僕は「幻の名盤に名盤なし」と常日頃思っているので、レアモノを集めようなんて気持ちはさらさらない。送料の関係でもう1枚買っておいたほうが得なので選んでみた程度のことだ。
レコード業界もネット配信の影響やらで売り上げが頭打ちとなっている時代だけに、あの手この手を考えているのだろう。実際、この手のレア本や幻の名盤がうたい文句のアルバムの多いこと!首を傾げたくなるようなアルバムも結構目立つが、生き残りを賭けた戦いなので目くじらを立て非難するわけにもいかないだろう。アルバム選定の自由はリスナーの手に委ねられているのだから自己責任で購入するだけのことだ。

で、このアルバムであるが、スタンダード・ナンバーとジャズの巨人の佳曲が揃った。どの曲も軽快。テンポもミディアム・テンポで心地よいスイング感に浸れる。

@"YESTERDAYS" 
ピアノのイントロに続きサクサクとブラッシュが4ビートを刻んでいく。テーマに入るとますます軽快。この1曲だけでこのアルバムの素性のよさが分かるというものだ。
A"DON'T GET AROUND MUCH ANYMORE" 
これも出だしがいいね。さあ、この気持ちの良いスイング感に身を任せよう。
B"WATCH WHAT HAPPENS" 
今度はさらに軽快なボサノバ調と来たもんだ。明るい日差しの屋外の喫茶店でバックグランドに流れていたらピッタリだ。やはり、こういうのはカクテル・ピアニストとはいわないのだろうなあ?
C"JEEPERS CREEPERS" 
軽いノリだ。

D"LOTUS BLOSSOM" 
この曲はK. DORHAMの作でなくて、B. STRAYHORN作。
E"MY FOOLISH HEART" 
しっとりとしたバラードも終盤にかけてテンポの良い4ビートを刻む。BILL EVANSの名演(JAZZ批評 17.)があるだけに比較されると辛いものがある。
F"SOMEWHERE" 
どこかで聞いたことのあるメロディをハードタッチで描いていく。軽快なブラッシュ・ワークに乗ってベースがソロを展開。
G"FREDDIE FREELOADER" 
M. DAVISの書いたブルース。このアルバム中もっともグルーヴィな1曲。ここではBLOCKのベース・ソロが良く歌っていていいね。
H"CAN'T HELP LOVIN' THAT MAN OF MINE" 
こうやってじっくり聴いてくるとこのピアニスト、結構色々なバリエーションを持っている。難をいえば、若干、ミディアム・テンポに固執した嫌いがある。

読後感ならぬ聴後感があるとするならば、颯爽として軽快な印象である。選曲も耳あたりの良いスタンダードが中心であくまでも清新である。こういうアルバムに泥臭い灰汁とか個性を求めてもナンセンス。あくまでも軽めの正統派ジャズなのだ。いってみれば、80点主義で可もなく不可もなくというアルバムだが、流通枚数が少なくてオークションでの高値取引になったのだろう。巷に溢れてしまえば、何てことはないアルバムに成りかねない。こういうアルバムは希少価値のままでいったほうが所有している人にとっても、これから手いれる人にとってもハッピーだろう。   (2008.08.08)