KEI AKAGI
ともあれ、その一瞬を切り取ったジャズとして感動したし満足感も得られたので最高点を点けたいと思う
"LIVE AT PIT INN"
ケイ 赤城(p), 杉本 智和(b), 本田 珠也(ds)
2008年9月4日 ピットイン新宿にてライヴ
急に思い立って、次男とケイ赤城のライヴに行ってきた。子供の頃からジャズを刷り込んできたので息子たちもジャズを聴くようになった。親の身勝手とは思うものの、ジャズの楽しさを共有できるというのはやはり嬉しいものだ。そう言えば、PIT
INNに娘とVIT SVEC TRIO(JAZZ批評 414.)を聴きに行ったのは、もう昨年の5月のことだった。あのライヴも素晴らしかったけど、今回のケイ赤城・トリオも勝るに劣らない出来であった。
<ファースト・ステージ>8時10分過ぎにスタート。ハーフだけで1時間と20分の長丁場。
@"いつもと違う" 新曲だそうで仮の名前がついている。
A"LIQID BLUE" タイトル曲になったアルバム(JAZZ批評 469.)からの演奏。聞きなれたテーマなのですんなりと親しむことが出来た。
B"ちょっと麻酔" これも新曲で仮のタイトル。何でもアメリカの歯医者に行ったら治療費を安く上げるために歯医者が麻酔の量をケチったのだそうだ。その痛みがジャズになった。でも激痛の走る演奏ではなかった。良かった。
C"デリシャス ガッツ フォエバー" この曲も新曲で副題が「デリシャス・モツ鍋・イン・博多」だそうだ。ああそうか!たらふく食って満足ついでにゲップが出てるのだと思わせる演奏だった。
<セカンド・ステージ>休憩時間を挟んで、スタートしたのは10時少し前だったと思う。
D"男3人一生懸命数えてる" 先ず、杉本智和が一人で出てきてベースのソロを展開。5分くらい弾いていたのだろうか?次第にイン・テンポになり、定型パターンを刻み始めると残る二人が出てきて合流。
E"ヒアーズ ザット ムカデー" 博多公演の時に杉本のベースにムカデが這いずっていたところからタイトルがついた。"HERE'S
THAT RAINY DAY"に引っ掛けてある駄洒落。
F"DON'T EXPLAIN" かなり崩してあったようで、タイトル名を言われるまでこの曲とは分からなかった。でも、こういうメロディの美しいテーマでは聴く側も一瞬ホッとする。いつも緊張感満載では疲れるというものだ。
G"カプチーノ" 1978年にCHICK COREAがわざわざ送ってくれたという曲。10ページにわたる難しい大作で、やっとチャレンジできるようになったと謙遜していたが・・・?
<アンコール>
H"DARK LADY" RICHIE BEIRACKの曲だが、誰もやらないのでチャレンジしてみたそうだ。
終わってみたら11時を回っていた。実に濃密で緊迫感溢れる3時間であった。迫力満点で大いに満足したものだ。3人のコンビネーションも素晴らしい。ベテランの赤城を若さ溢れる杉本と本田の二人がしっかりとサポートしていた。
"LIQUID BLUE"のレビューでも書いたが、本田の良く歌うドラミングはこのグループに大きな力を与えている。ドラミングに切れがあって、なおかつ、沢山の引き出しを持っている。そして、これが非常に大事だと思うが、常に躍動し演奏者を乗せていくのだ。ハード・ドライヴに限らずバラード演奏においても小気味の良い躍動感が味わえるのだ。先日、生で聴いたLEON
PAKER(JAZZ批評 475.)をも既に凌いでいるかもしれない。この若きドラマーはもっともっと成長していくに違いない。
ベースの杉本もしっかりとしたサポートでグループを盛り上げていた。本田珠也のドラムスの音量に対抗するには、ある程度アンプに頼るのはやむを得まい。帰り際に客席に出てきた杉本に「素晴らしかった!」と声をかけて握手をしたが、その右手は結構ナイーブな印象だった。僕の手のほうが大きかったかも・・・。
ベテラン・赤城の両手は良く転がる。多弁にも寡黙にも弾ける手だ。新旧の組み合わせで今後も新たなチャレンジをして欲しい。
一点気になったことを挙げると・・・。兎に角、テーマが難しい。何回聴いたとしても覚えきれないし、ましてや、口ずさむなんてことは先ず出来ないだろう。最近のジャズのテーマは難しすぎる。やはり、耳で覚え、口ずさめるようなテーマにチャレンジして欲しいと思うのだ。
ジャズがその一瞬を切り取る音楽だとすれば、これでもいいのかもしれない。でも、歴史がそうであるようにスタンダードとして世代を超えて歌い繋げていくためには誰にでも口ずさめるような優しさ(易しさ)が必要と思うのだけど、いかがであろう?
ともあれ、その一瞬を切り取ったジャズとして感動したし満足感も得られたので最高点を点けたいと思う。 (2008.09.05)