ケイ 赤城
今は亡き本田竹広はDNAを引き継いだ息子の姿を草葉の陰から喜んでいるだろう
"LIQUID BLUE"
ケイ赤城(p, fender rhodes), 杉本智和(b), 本田珠也(ds)
2007年8月 スタジオ録音 (VIDEOARTS MUSIC INC. : VACT-0001)

このアルバムのジャケットには日本語の文字がほとんどない。全て英語だ。だからメンバーを日本語表示にするにはネット検索して確認する必要があった。販売元と発売元だけは日本語表記だったけど、メンバーの名前くらい漢字で書いてもいいのじゃないか。HMVのネット表記を見てみると「赤城ケイ」ではなくて、「ケイ赤城」となっているが、どうもよくわからん。
赤城は1989年から1991年にかけてMILES DAVISのバンドで活躍した経験を持っているし、ベースの杉本はバークリー音楽院で研鑽を積んだらしい。このアルバムのポイントである本田珠也は名ジャズ・ピアニスト本田竹広(JAZZ批評 386. & 389.)を父に持つ。
Cを除く全ての曲が赤城のオリジナルだ。

@"A SMILE IN THE RAIN" かなりヨーロピアン・サウンズに近い。クリアで知的な印象だ。3者のコンビネーションもいいし、これは期待できそうだ。既にして、本田のドラミングは異彩を放つ。
A"LIQUID BLUE" 難しい変拍子だが味わいのあるテーマ。ピアノとベースのユニゾンでテーマをとる。杉本のベースは強いビートと確かな音程で安心感がある。なかなか良いベーシストで今後が楽しみだ。北川潔のように世界に飛躍して欲しいものだ。
B"RIPPLE EFFECT" ベースとドラムスが躍動してテーマに入る。途中からフェンダーに切り替えるが、この演奏にピタリと嵌っている。磐石のリズム陣に乗って赤城のアドリブも冴え渡っている。目立たないが確実なビートを与える杉本のベースとアイディア溢れる本田のドラミングはこのトラックの柱だ。
C
"BLUE IN GREEN" このアルバム唯一のスタンダード・ナンバーであるが、アレンジに趣向がある。ここでの主役は何といっても本田のドラミングだ。

D"IF ANTS READ POETRY" 跳躍する本田のドラミングで始まるグルーヴィなテーマ。杉本のベースも唸りをあげながら歌っている。続くアルコ弾きの演奏も面白い。赤城は途中からフェンダーに切り替えるが違和感はない。進むにしたがって熱を帯びてくる本田のドラミングが最高だ。エンディングのきめも良いね。手数は多いが、全然うるさいと感じさせない。この才能豊かなドラマーの熱い思いを汲み取って欲しい。勿論、この本田珠也も世界に飛躍できる力量の持ち主であることは間違いないし、是非とも、世界に挑戦して欲しいと思うのだ。
E"WINTER LIGHT" 少々、抽象的、観念的なプレイだ。
F"THE CHILDREN PLAY" 概して、赤城の書いた曲は凝ったテーマが多いが、この曲は途中からテンポが徐々に速くなっていく。この辺の切れ味はとても鋭い刃のようだ。そして、徐々に元のテンポに戻る。
G"ANOTHER WAY HOME" しっとりしながらも熱い赤城のソロが2分半ほど続き、3人のプレイに入るが、そこからがまた素晴らしい。本田のドラミングがいいねえ。今は亡き本田竹広はDNAを引き継いだ息子の姿を草葉の陰から喜んでいるだろう。

このアルバムはどっしりと構えて、正面から向き合って欲しいアルバムだ。演奏する側も真剣だ。聴く側も真剣に対峙したい。そういうアルバムだ。3者の力量、生み出されるパワー、どれも素晴らしい。剛速球を真正面から受け止める姿勢がないとこのアルバムの良さは分からないだろう。そして若手プレイヤーの杉本と本田のプレイに注目して欲しい。赤城は既にして世界にその名を轟かせているが、次はこの二人の出番だろう。1年後か2年後かに二人の名前が世界に馳せていることを願いながら「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2008.02.26)



独断的JAZZ批評 469.