HIROMU AOKI
大向こうを唸らせるようなテクニックをひけらかさなくても、難解なアレンジに凝らなくても、楽しさを満喫できるジャズ・アルバムは作れるというものだ
"THE BEST THING FOR YOU"
青木 弘武(p), STAN GILBERT(b), CARL BARNETT(ds)
2007年6月 スタジオ録音 (BASSLINES MUSIC LTD. : BLM6252607)

青木弘武というピアニストは初めて聴く。まあ僕らくらいの年になってくると世間から少しずつ距離が離れてきて、全く知らないミュージシャンがどんどんと増えてくる。いつもチェックしている輸入レコードショップのサイトに掲載されていたのがこの1枚。その中のライナー・ノーツの一文に、「テクニックをひけらかすような無駄な音を多用せず、間を生かし、シンプルに一音一音を大切に弾いているから・・・・」とあった。最近、饒舌型のピアノ・トリオには食傷気味になっていたので、これは丁度いいかもと思って購入してみた。
この青木弘武は1953年生まれというから、今年、55歳になる。現在は都内のジャズ・クラブを中心に活躍しているらしい。ライヴ情報を見てみると歌伴が結構多い。確かに、このCDを聴いてみてもヴォーカルの伴奏役として配慮の利いたピアノを弾きそうだ。

@"ON GREEN DOLPHIN STREET" 
美しくて軽快なタッチで始まるテーマがアドリブでは一転して倍テンの4ビートでスイングする。瑞々しいピアノ・タッチは気持ちが良い。
A"GOING HOME" 
ドヴォルザークの「新世界」。この曲の名演というとBILL MAYS "GOING HOME"(JAZZ批評 130.)が思い出される。ここではピアノ・ソロで入ってサビから3者が合流する。アドリブはミディアム・テンポの4ビートを刻み、心地よくスイング。
B"BIWAKO" 
「琵琶湖就航の歌」。原曲の美しさを保ちながらちゃんとジャズっている。GILBERTのベースが良く絡んでいる。
C"FUNNY BLUES" 
確かに「ひょうきんな」ブルースではある。指でも鳴らしながら楽しもう!
D"SOME KIND OF PRAYER" 
ピアノではなくて、ピアニカで演奏。多分に叙情的で小学校唱歌のようでもある。この曲は余分だった。
E"THE BEST THING FOR YOU" 
ピアノとベースの緊密感が手に取るように分かる。
F"STRANGER IN PARADISE" 

G"MY PEOPLE" 
H"MIDGET" 
REDGARLAND風、軽妙タッチの演奏が聴ける。
I"FALLING IN LOVE WITH LOVE" 
J"DREAMY" 
K"I'M GETTING SENTIMENTAL OVER YOU" 
L"ALONE TOGETHER" 
スタンダード集には必ずといってよいほどピック・アップされる曲。先日紹介したJOOP VAN DUEREN "PRIVATE"(JAZZ批評 482.)でも演奏されていた。ベースの定型パターンで始まり、お決まりのようにサビの部分から4ビートを刻みだす。ありふれた演奏スタイルであるが、心地よいスイング感が堪能できる。ベースのGILBERTとのコンビネーションも良い。
M"TAKE ME OUT TO THE BALL GAME" 
ミディアム・ファーストの2ビートで始まる陽気で爽やかな演奏。このカラッとした演奏スタイルが青木の身上かもしれない。ドラムスとの4小節交換を経てテーマに戻る。

このアルバムは全編にわたって、指でも鳴らしながら聴いて欲しいアルバムだ。心地よいスイング感と楽しさを共有できるはずだ。以前に紹介した鈴木良雄の"FOR YOU"(JAZZ批評 416.)や岩崎佳子の"HEART TO HEART"(JAZZ批評 443. :そういえばジャケット・デザインまで似ている!)との共通点といえるだろう。
大向こうを唸らせるようなテクニックをひけらかさなくても、複雑なアレンジに凝らなくても、楽しさを満喫できるジャズ・アルバムは作れるというものだ。   (2008.05.31)



独断的JAZZ批評 484.