岩崎 佳子
嫌味のない演奏で、「ナチュラル & ウォーム」と言いたくなる
"HEART TO HEART"
岩崎 佳子(p), 田附 靖(g), 稲葉 國光(b),
2007年1月 スタジオ録音 (LITTLE PANPUKIN : KAKO-0707)

先ず、ジャケットの3人の手を見てもらいたい。これぞ、プロの手だと感心した。右端の手はベーシスト・稲葉国光の左手。指先のタコが凄い。50年以上の年季が形になって表れている。左上の手がギターの田附靖の左手だ。やはり指先に小さめのタコがある。楽器の弦の太さによりタコの出来方が違う。真ん中下の手がピアニスト岩崎の右手だ。女性らしいふくよかで優しい手だ。一見、この手から重低音の力強いタッチが生まれるとは思い難い。
日本人3人によるドラムレス・トリオだ。稲葉國光とは懐かしい名前だ。この時、72歳になっていたという。今も現役を張っているらしい。素晴らしいことだ。そう、ジャズメンは老いさらばれて死ぬまで現役で活躍して欲しいと思う。

@"BOSSA DE GLOVER" 
岩崎のオリジナル。ボサノバ調で軽快、風の如し。小春日和の陽だまりで爽やかな風を受けながら、ビールでも飲みながら聴けたら、これは無上の天国だ。3人の息のあったアンサンブルも見事。岩崎のコンポーザーとしてのセンスも素晴らしい。
A"SKATING IN CENTRAL PARK" 
軽いといえば軽いのであるが、これがこのグループの味になっている。快さにどっぷりと浸かってみよう。ドラムスの替わりに入っている田附のオーソドックスで安心感のあるギター・プレイにより一層軽快さが強調される。國光のベースは奇を衒わず燻し銀の味を出している
B"STOLEN MOMENTS" 
OLIVER NELSONの書いた名曲。テーマは16*2の32小節だがアドリブでは12小節のブルースで演奏される。テーマの後、ギターがソロを執るが、その時のピアノのバッキングがいいねえ。岩崎は@やAの演奏と打って変わってブルージーな演奏を展開する。
C"IT MIGHT AS WELL BE SPRING" 
このRICHARD RODGERSの曲も軽快なボサノバ調。温かみのあるギターの音色がぴったりと嵌っている。続いて、登場するピアノの音色も小気味が良い。
D"MOON LAKE -チミケップ幻想-" 
岩崎のオリジナル・バラード。この曲もセンスのよさを感じさせる。ここではピアノのソロに合わせる田附のバッキングが聴き所。3者のメランコリックでありながら粒立ちのよい音色が印象に残る。
E"NORTHERN FOLKLORE" 
これも岩崎のオリジナル。左手のアルペジオに乗って右手が和音を重ねていく。アドリブに入ると伸びやかに右手が歌う。続いて國光の72歳とは思えない力強いベース・ソロが入りテーマに戻る。

F"SHABONDAMA" 
「シャボン玉」を力強くアレンジしたピアノ・ソロ。この曲は野口雨情が生後7日で亡くなってしまった娘への悲しみがきっかけになって作られたとも言われている。「シャボン玉飛んだ 屋根まで飛んだ 屋根まで飛んで こはれて消えた シャボン玉消えた 飛ばずに消えた 生まれてすぐに こはれて消えた 風々吹くな シャボン玉とばそ」
G"SO IN LOVE" 
COLE PORTERの名曲。ここでもボサノバ・テイスト。左手の重低音と高音部の好対照がいいね。
H"ALFIE" 
ご存知、BURT BACHARACHの名曲。曲自体の温かみがより増幅されて心を満たす。このしっとり感が何とも言えないね。
I"THAT OLD FEELING" 
明るい曲想に4ビートの快さ。
J"MR. J. D" 
岩崎のオリジナル。ボサノバ調で軽く上品に・・・というところか。実に楽しんで弾いているその様が見て取れる。
K"ONCE I LOVED"
 A. C. JOBIMの曲。当然これもボサノバ調。

このトリオ、とても素性が良いと思う。嫌味のない演奏で、「ナチュラル & ウォーム」と言いたくなる。全12曲の中にボサノバ調の演奏が5曲ほど入っている。そういう軽さに流れそうな雰囲気の中にもBやFのような左手の重低音を駆使した演奏も入っていてキチンと押さえるところは押さえている。
とても聴きやすい演奏が揃っただけに、多分、プロの評論家は高い点数を点けないだろう。でもこういうナチュラルで心を優しくしてくれるアルバムというのはそうそうあるものではない。・・・ということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2007.10.27)



独断的JAZZ批評 443.