独断的JAZZ批評 485.

SEBASTIAN STEFFAN
まるでジャズの万華鏡だ
"LOOK AT THE DOORKEEPER"
SEBASTIAN STEFFAN(p), ANDREAS EDELMANN(b), MARTIN STIEBER(ds)
2006年12月 スタジオ録音 (KONNEX : KCD 5194)

ピアニストのSEBASTIAN STEFFANは1979年生まれでドイツ・ハノーヴァーを拠点として活躍しているらしい。ドイツらしいというのだろうか、質実剛健の気風とほのかなロマンチシズムを兼ね備えている。聴いているうちにのめり込んでいく自分が分かる。
かつて紹介したドイツのピアニスト、JOERG REITERのアルバム、 "SIMPLE MOOD"(JAZZ批評 66.)などとも相通ずるところがある。演奏に切れがあって、一筋縄ではいかない頑固さが見え隠れする。アブストラクトな一面も垣間見せ、実にハードで男っぽい演奏だ。
全曲、ピアニスト、SEBASTIAN STEFFANの手になるオリジナルだ。

@"NEUE ERKENNTNIS" 
初っ端から、いかにも癖のありそうな入り方だ。事実、これは相当手強そうだ。スローであったり、急速調豪腕4ビートを刻んだり、アヴァンギャルド風になったり、フリー・テンポになったり、牧歌的美メロを弾いてみたりと・・・まるでジャズの万華鏡だ。
A"BORDERLINE" 
難しいリズムだ。変拍子であってもちゃんとスイングできるのが凄い。やがて、牧歌的な美しいメロディラインのスローに変化。ここまで来ると「やられたなあ!」という気になってくる。
B"WIEDER FREI" 
美しいピアノ・タッチで始まるスロー・バラード。3者が合流してからのミディアム・テンポの演奏が心地よい。強靭なピチカートのベース・ソロがいいねえ。威風堂々として逞しい。
C"LOOK AT THE DOORKEEPER" 
13分にも及ぶ長尺モノだが、千変万化の多彩なスタイルが、ついには哀愁を帯びた最高潮のクライマックスを迎える。これは感動モノだ!!

D"WINTERSPORTS" 
力強く躍動する定型パターンで始まる。その後に来る静寂の煌き。何とも憎い演出で聴くものを離さない。ただ激しいだけでなく、ただ甘いだけでもない。その絶妙な塩梅がこのグループの命だろう。そう思っているうちに、一転して軽快なリズムを刻め始める。リリカルでありながらも力強く鍵盤を行き来するSTEFFANのピアノに唸ってしまう。
E"TRAUMPHASE" 
スロー・バラード。EDELMANNのベース・ワークも太くて逞しい。
F"NERV LASS NACH" 
G"AUS, SCHLUSS, VORBEI" ここでもアコースティックな図太いベース・ソロが聴ける。ピアノとのインタープレイも面白い。

こういうジャズはチマチマと小音量で聴くのではなく、大音量で聴いてもらいたい。そのダイナミズムが十分に堪能できるはずだ。ひとつの曲の中で色々な演奏スタイルが味わえる。強と弱、緩と急、動と静、美と醜、などなど・・・。その極めつけはアルバム・タイトルにもなっている"LOOK AT THE DOORKEEPER"だろう。実は、このアルバムを購入した当初、流し聴きの段階ではそんなにいいアルバムとは思っていなかった。いざ、レビューを書こうとじっくりと向き合ってみると、なかなかいいアルバムなので驚いた。
僕はこういうメリハリの効いた演奏が好きだ。この辺は同じドイツのグループで最近紹介したMARTIN TINGVALLの"SKAGERRAK"(JAZZ批評 473.)などとも相通ずるものがある。美しさだけではなく力強さや激しさ、躍動感を兼ね備えた演奏だ。
こいつぁ、スカッとするね。迷わず、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加してしまおう。しばらくはドイツのピアノ・トリオから目が離せない。   (2008.06.07)



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