BILL STEWART
STEWARTの中では、このアルバムに対する思い入れとは亡き父への鎮魂歌なのかもしれない
"INCANDESCENCE"
KEVIN HAYS(p), LARRY GOLDINGS(hammond organ, accordion), BILL STEWART(ds)
2006年12月 スタジオ録音 (PIROUET : PIT3028)

BILL STEWARTといえば現代きっての名ドラマーといえるだろう。良く歌うドラミングと同時にシンバリングの絶妙さは賞賛に値する。この人が1、2、3、4とシンバルを叩くだけで躍動感が湧いてくる。これは不思議だ。何の変哲もないリズムに魂が入ったように躍動し始めるのだ。いいドラマーは皆シンバリングが上手い。JACK DEJONNETTEしかり、ALEX RIELしかり、BRIAN BRADEしかり。
そのSTEWARTが自己のトリオを率いたリーダー・アルバムだ。ベースの代わりにオルガン(とアコーディオン)が入る変則トリオだ。

@"KNOCK ON MY DOOR" 
いきなり変拍子と来たもんだ。8/4に2拍を付け足して、10/4拍子になった感じ。最後まで乗り切れない。
A"TOAD" 
このアルバムの全ての曲がSTEWARTのオリジナル。お世辞にもいい曲だとは言い難い。これは後で述べるが、このアルバムの目的とするところと関連してくるだろう。乗りに乗りまくったという演奏ではない。あくまでも、沈着冷静に対処したということだろう。ここではオルガンのフット・ペダルによるウォーキングが聞けるが、残念ながらアコースティック・ベースの奏でる音とはビート感に歴然たる違いが表れてしまった。
B"PORTALS OPENING" 
これも内省的なテーマ。
C"OPENING PORTALS" 
これも小難しいテーマになった。オルガンのモゴモゴ・ベース音が耳に心地よくない。

D"SEE YA" 
ピアノとアコーディオンによる悲しいテーマ演奏。
E"FOUR HAND JOB" 
かなりアブストラクト風味を強くしたテーマで面白いとは言い難い。へえ!BILL STEWARTもこういう演奏を好んでやるんだあ!
F"TELL A TELEVANGELIST" 
やっと期待していたSTEWARTの4ビートを刻むドラミングを聴くことが出来た。KEVIN HAYSのピアノもなかなか良いし、これは結構楽しめる。
G"METALLURGY"
 フリーのアブストラクト。
H"INCANDESCENCE" 
まるでGの延長線のようにテーマに入っていき徐々に躍動感を増してくる。ここではSTEWARTのドラミングに暫し耳を傾けたい。このアルバムのベスト。

BILL STEWARTがリーダーとなって、本当に自分のやりたい音楽をやったのだとしたら、これは意外だった。アルバム・ジャケットに、このCDは2004年になくなった父親に捧げるとあるので、このアルバムの狙いこそ、そこにあったのだろう。即ち、これは多分にトリビュート・アルバムとしての性格を強くしている。STEWARTの中では、このアルバムに対する思い入れとは亡き父への鎮魂歌なのかもしれない。それゆえ、どれもテーマが重たい。いつもの明るくスイングするSTEWARTはここにはいない。
多くのアルバムでドラマーとして勇躍してきたSTEWARTの姿とは異次元の仕上がりなのだ。僕としては心地よくスイングして4ビートを刻むSTEWARTの演奏を期待していたので思惑と外れた感を免れない。しかし、これをもって、この変則トリオは面白くないとは言い切れないだろう。今後のアルバムを注視したいと思った。   (2008.05.25)



独断的JAZZ批評 483.