JUDY BAILEY
アグレッシブなサイドメンを配置することによって、ベテラン・ピアニストが普段は使わない脳に刺激を受けてより高い能力を発揮できるのではないかと思ったものだ
"PENDULUM"
JUDY BAILEY(p), CRAIG SCOTT(b), TIM FIRTH(ds)
2007年5月 スタジオ録音 (CREATIVE VIBES : BL017)

パソコンのディスプレイが故障したので1週間ばかり修理に出していた。ディスプレイが壊れてしまうとパソコンは当然のことながら何も出来ない。電源すら落とせないので、強制終了となってしまう。この間、パソコンがないとこんなにも暇を持て余すものかと我ながら驚いた。いつもは当然のようにパソコンに向かいながら、当然のようにジャズを聴いていたのであるが、このパターンが崩れてしまった。というわけで、この1週間はほとんどお休み状態。
余談が過ぎたが、気を取り直して聴いてみよう。JUDY BAILEYはオーストラリア出身でMIKE NOCKとともに今なお大きな影響力を及ぼしているベテランだという。このアルバムはネット上の多くのジャズ・ショップで賞賛されているアルバムだ。全7曲。最短でも8分と28秒、最長で11分33秒と1曲あたりの演奏時間が長いので気に入らないと思えば途中でパスすることだ。

@"LOVE WALKED IN" 停滞感のある演奏で、ズンズン突き進むドライブ感が欲しいと思った9分と28秒。
A"YOU AND THE NIGHT AND THE MUSIC" 聞き古されたスタンダードナンバーであるが、演奏は極めてオーソドックス。正統派と言えるだろう。このアルバムを聴きながら気になっていることを挙げれば、ドライブ感がないというか突進力がないというか、前へ前へと進むスピード感がないのだ。そこがとても物足りない。それさえあればという気にさせるだけに非常に残念。このJUDY BAILEYというピアニストは切れもあるし、良いサイドメンに恵まれればそれなりのアルバムを残してきたのだろう。今回はサイドメンが今ひとつというところだろうか?8分と28秒。
B"IF YOU COULD SEE ME NOW" ピアノのソロからインテポになりベースとドラムスが合流する。兎に角、ドラムスが控えめすぎて物足りない。時々、ドラムスの音が消えてしまう感じで、一向に躍動感が生まれてこない。最長の11分と33秒。
C"FLAMINGO" 美しいテーマ、しっとりとした曲想。ベテランならではの味わいはあるもののそれ以上のプラス・アルファがない。9分と17秒。

D"NIGHT AND DAY" 面白いイントロだとは思うけど、このテーマに対しては多少の違和感は覚える。控えめすぎるドラムの音量は録音上のテクニックの問題もあるかもしれない。そうだとすれば、録音技術によって大いに損をしたアルバムといえるだろう。そういえば、ベースの音は上手く捉えられている。終盤にドラム・ソロが配置されているが、これも躍動感に乏しくダイナミズム溢れるドラミングとは言い難い。10分と21秒。
E"COUNTRY (NOT WESTERN) BLUES" グルーヴィなブルース。RAY BRYANT("PLAY THE BLUES"(JAZZ批評 19.)がいかにも好みそうなブルース。やはり、このグループにはこういう演奏が一番お似合いのようだ。9分47秒。
F"PENDULUM" 時計の振り子をイメージした曲であろうか?前曲に続いて、BAILEYのオリジナル。ミディアム・テンポのワルツを刻んでいくが途中でだれる。途中でストップしてしまうのではないかと心配させる9分と39秒。

このJUDY BAILEYというピアニストにこのサイドメンは結果的に物足りない。録音技術を含めて、もっとアグレッシブなベースとドラムスが欲しかった。その時に、僕が連想したのは、杉本智和と本田珠也の"LIQUID BLUE"(JAZZ批評 469.)のコンビだ。こういうフレッシュでアグレッシブなサイドメンを配置することによって、ベテラン・ピアニストが普段は使わない脳に刺激を受けてより高い能力を発揮できるのではないかと思ったものだ。実際、世の中にはベテラン・ピアニストに若手のサイドメンを起用した例は五万とある。こんな夢みたいな事が実現できたら、これは面白そうだけど、どこかのレコード会社で実現できないものだろうか?
ベテラン・女流ピアニスト、BARBARA CARROLLの"SENTIMENTAL MOOD"(JAZZ批評 335.)の例では、必ずしも若手とは言い難いがアグレッシブなサイドメンの活躍によって素晴らしいアルバムに仕上がった例がある。是非、こんなチャレンジをしてもらいたいものだ。   (2008.03.16)



独断的JAZZ批評 472.