荒武 裕一朗
きわめてオーソドックスな演奏スタイルゆえに、オリジナルを2〜3曲入れたほうが良かった
"DUO"
荒武裕一朗(p), 安東昇(b)
2006年3月 ライヴ録音 (BUNCA : BCA 2001)

前掲の"DUET"(JAZZ批評 467.)は余韻も強烈だった。レビュー掲載後、1週間聴き続けても聴き飽きることがない。いいアルバムとはそういうものだ。この心理状況で新たなレビューを入れても、恐らく辛口になってしまうだろう。ということで、10日間空けてみた。
今回のアルバムは同じデュオではあるが、ピアノとベースのデュオ。日本人コンビの作品だ。埼玉県志木駅前にある"Bunca"でのライヴ録音。この荒武は10年前までこのジャズ喫茶でアルバイトをしていたという。謂わば、故郷に錦を飾るライヴとも言える。しかし、このライヴ、音が良いとは言い難い。ピアノの音色にふくよかさがない。もしかして、アップライト・ピアノか?前掲の"DUET"はライヴ録音にもかかわらずとてもよい音だった。この音色と比較するといかにもローカルな感じだ。
ジャケットに載っている安東の写真は左利きになっているけど、本当に左利きか?だとすれば珍しい。多分、写真を反転して印刷してしまったのだろう。

@"WAVE" 一発目の印象としては「荒いなあ!」という感じ。よく言えば「荒削り」とも言えるが、これはちょっとね。このアルバム、デュオになっているが、最初から意図したものか?それとも本来トリオで演奏すべきところ、何らかの事情があって急遽、デュオになったのだろうか?何でこんなことを書くかというとデュオでやる必然性を感じないのだ。3−1=2になってしまっているのだ。単にドラムスがいなくなっただけ。二人のコミュニケーションも十分とは言えまい。この演奏なら、絶対、ドラムスが入っていたほうが良かった。
A"BEAUTIFUL LOVE" 
チープなピアノの音色だ。荒武は激しくピアノを引き倒そうとするが空回りか。こういうライヴでの演奏途中のまばらな拍手というのは余計に白けさせる。
B"STRANGER IN PARADISE" 
C"BILLIE'S BOUNCE" 
饒舌なピアノで激しく鍵盤を叩くのであるが、なぜか印象に残らない。最後は倍テンになって終わるが、なんとも荒い。
D"ALL BLUES" 
E"YESTERDAY" 

全曲、有名なスタンダード・ナンバーばかりで、ライヴ・ハウス・リスナーへのサービスだろうか?が、必ずしもサービスになっているとは言えまい。きわめてオーソドックスな演奏スタイルゆえに、オリジナルを2〜3曲入れたほうが良かった。このアルバムは荒武、安東、両人の実力を余すことなく伝えたアルバムとは言えないのではないだろうか?デュオという難しいフォーマットを選んだのも良くなかった。ある種の気負いが見られるもの。ドラムレス・デュオの場合はドラムスの穴を埋めるべくピアノもベースも多少雄弁になりながらも阿吽の呼吸で緊密感と一体感に溢れるインタープレイを展開するのが好ましいのであるが、そうはなっていない。
ピアノとベースのデュオといえば、TERJE GEWELT, "HOPE"(JAZZ批評 275.)、KENNY DREW, "DUO LIVE IN CONCERT"(JAZZ批評 292.)、JAN LUNDGREN, "LOCKROP"(JAZZ批評 338.)を思い出す。いずれもデュオでありながらデュオを感じさせない緊密感と一体感が見事だった。
荒武はまだまだ発展途上ということで次のアルバムに期待したい。   (2008.02.20)



独断的JAZZ批評 468.