SIMON FISK
世間では、こういうのを曲者と呼ぶのかもしれない
"TRAINWRECKS"
CHRIS GERSTRIN(p), SIMON FISK(b), TOM FOSTER(ds)
2002年1月 スタジオ録音 (PLUNGE RECORDS : PR00617)

僕は自分が購入したアルバムは全てこのHPでレビューを掲載して行こうと決めている。秀作にしろ、駄作にしろ・・・。このアルバムをゲットしたのは3月だったから、かれこれ3ヶ月以上も手元で眠っていた。実を言うと眠っていたわけではなくて、時々は聴いてはいたのだが、なかなかレビューを書こうという気にならなかった。文章が浮かんで来なかったのだ。
いよいよ手持在庫が少なくなってきて一念発起で書こうと思い始めたところだ。チョイ聴きしていると何とも複雑なインパクトで食欲をそそらなかったのだが、改めて、この文章を書きながら聴いてみると、これはまた違った味わいのするアルバムだということが分かってきた。これは一癖も二癖もありそうだ。
SIMON FISKはカナダで活躍するベーシストであるという。このアルバム、今までのジャズの範疇で括ろうとすると少し無理がある。ジャズであって、ジャズ的でない。多ビートとバラードが中心で、4ビートを刻む演奏はほとんどない。その辺が特徴的でもあり、難儀なところでもある。世間では、こういうのを曲者と呼ぶのかもしれない。

@"BIG FOOT" PAUL BLEYの曲だという。オープニングの1曲目として、これは減点ものだ。長めの8分。
A"SOMETHING OF ALL" 3者の競作。フリー・テンポのインタープレイで始まる抽象画。14分半の長尺もので途中でだれる。9分過ぎからやっとインテンポになり、ベースが定型パターンを奏でる。
B"I FALL IN LOVE TOO EASILY" まるで別世界の音色。180度対照的な音作り。美しいバラードのスタンダード・ナンバーであるが、観念的な印象を与える。10分間、最後まで聴き通せるか?
C"BLUES THING" FISKは余程、ベースの定型パターンが好きなのだろう。グルーヴィな8ビート。太いベースの上でピアノが跳ねるがちっとも面白くない。忍耐を必要とする9分弱。
D"SOME SORT OF SPIRITUAL" FISKのオリジナルであるが、牧歌的でどこかで聞いたことがあるような?!スロー・ロック風。

E"THE ONE" 3者の競作による難解な曲。フーッ!ため息。
F"COMFORTABLY ALONE" スローなインタープレイ。
G"ALL IS SAID AND DONE" これも9分弱と長い。またまた、ため息。
H"SEVEN OCEANS" 面白くとも何ともないベースの定型パターンで始まり、それが延々と続く。無機的な演奏だ。
I"CLOSING IN" ピアニスト、GERSTRINの曲。美しいテーマだ。こういう演奏とHのような演奏、凄いコントラストだ。どちらが彼らの目指すところなのだろう?

得体の知れないというか、掴み所のないというか、不思議なグループだ。B、D、Iのようなしっとりした演奏があるかと思えば、@やA、Hのような掴み所のない冗長気味な演奏もある。総じて、体から沸きあがるような躍動感がない。頭でこね回したような理屈っぽさがあって観念的である。波長が合う人には曲者的で面白いと感じるかもしれない。
僕にとっては、筆の進まない典型的なアルバムだ。しっかりと向き合って聴いてみたのであるが、やはり、心は躍らなかった。   (2007.06.23)



独断的JAZZ批評 422.