独断的JAZZ批評 402.

GIOVANNI MIRABASSI
甘ーいスウィーツばかり食べていると、塩辛いポテトチップスでも食べたくなる
"PIANO SOLO LIVE"
GIOVANNI MIRABASSI(p)
2007年3月20日 武蔵野市民文化会館 小ホール

G.MIRABASSIのライヴ・コンサートは2回目である。前回は2005年末の澤野工房の主催によるコンサート(JAZZ批評 310.)で、同時に北川潔トリオ(ピアノがKENNY BARRON)も聴けた。今回は武蔵野市民文化会館・小ホールでのピアノ・ソロである。
平日の19時からの開演ということで、会社帰りにやっと間に合ったという状況であったから、事前に一杯アルコールを引っ掛ける時間もなく、僕のテンションは低かった。
演奏曲目は15曲とアンコールが2曲で、合計で17曲。ソロであることを考えると,、2時間ではこんなものだろう。ソロ・アルバム"AVANTI !"(JAZZ批評 60.)からピック・アップされた曲が多かったように思う。曲名までは思い出せないが、今までに耳にした事のある曲が主体だ。勿論、"AVANTI !"の1曲目に入っていた"EL PUEBLO UNIDO JAMAS SERA VENCIDO"も演奏された。

この武蔵野市民文化会館の小ホール、474席は満席であった。聴衆に中高年が多いのはいつの場合も一緒だ。今回は女性の姿が多かったのも印象的であった。このホール、パイプ・オルガンが設置されているが、クラッシクの演奏が多いのだろう。音の共鳴という点でジャズにはあまり向かないホールと言う印象を持った。兎に角、残響が凄いのだ。ホームページによると残響時間1.6秒〜2.2秒とあるが、これが高いのか低いのか僕には分からないが・・・。
加えて、MIRABASSIもサスティン・ペダルを多用するので音が重なり合い、まるで洪水のように押し寄せるという状況がままあった。僕の席は前から2列目で演奏者の顔はピアノの陰になってまるで見えないが、足元だけは良く見えた。目線の高さに足元がある感じで、足の動きはバッチリ分かったけど、足見ててもねえ・・・・。右足をペダルから離して引いているときが一番良かったなあ。音に切れがあったし躍動していた。

1曲目、2曲目はノリも今ひとつで残響の多さが気になった。3曲目にラグタイム風の演奏で雰囲気が変わった。少しノリが良くなってきた。4曲目、重低音と高音が重なりテンションが上がってきた。5曲目、印象なし。6曲目、"AVANTI !"の1曲目に入っている"EL PUEBLO UNIDO JAMAS SERA VENCIDO"。この曲はMIRABASSIの代名詞みたいなものだ。7曲目、スロー・ロック風の演奏で少し毛色の変わった演奏だった。これで第1部が終了。
第2部に入り、8曲目の頭にガツンと鍵盤を叩いて(プレイヤーも聴衆も)目を覚ます!が、続くテーマは美しいいつものパターン。うなり声というよりもハミングしているという感じの声が僅かに聞こえる。9曲目、印象なし。10曲目、メルヘンチックな曲でアドリブでイン・テンポになる。11曲目、リズミックな演奏。12曲目、このあたりまで来ると少々、食傷気味となる。大仰なピアノ・プレイという印象もある。13曲目、印象なし。14曲目、サスティン・ペダルをあまり使わないで演奏。躍動感があって、良かった。結局、これが一番良かったかも。同じく、15曲目もいい調子で、激しく重低音と高音部を重ね合わせた演奏であった。これで2部が終了。
アンコール1曲目が「ハウルの動く城のテーマ」で、これは「想定内」だった。日本人(久石 譲)の作った曲だからアンコールで弾くだろうと思っていたら、やはりそうだった。2曲目、これも定番のワルツ。

総じて、美しいメロディのオン・パレードで、これぞ"MIRABASSI WORLD"という印象が強いのではあるが、何か物足りなさも残った。言ってみれば、ワン・パターンなのだ。曲も美しい曲ばかりで変化に乏しい。甘ーいスウィーツばかり食べていると、塩辛いポテトチップスでも食べたくなるのと同じで、グルーヴィなブルースあたりを聴いてみたくなった。
また、演奏内容も、いわば「想定内」で、ジャズとしては面白みに欠けると言わざるを得ない。ジャズの即興性を重んじるなら、「想定外」といえる意外性がなくてはジャズとは言えまい。ホールの残響が強いことによる影響もあるとは思うが、音が残響と重なって洪水のように押し寄せる感覚は焦点の定まらない騒音のようにも聞こえた。これは僕がいた位置によることも大きいかもしれない。尤も、一緒に行った細君は大いに満足していた様子だった。
一方、演奏について触れると、MIRABASSIのピアノにも、もっと「間」があると良かった。音数の多いピアノ・プレイと残響で重なり合った音と相まって、非常に饒舌な印象を与えた。
そういう意味では、昨年末に発売になったKEITH JARRETTの"CARNEGIE HALL CONCERT"(JAZZ批評 370.)はやはり凄いと認識を新たにした。曲ごとに曲想も変化に富んでおり、そのひとつひとつの質が高く、リスナーを飽きさせることはない。

会場で配布されたパンフレットを見てみると、JAN LUNDGREN(P)のソロ・コンサートが決まったらしい。日時と場所は未定だが、いずれこの(財)武蔵野文化事業団のいずれかの施設で公演されるのだろう。同じ、この小ホールなら僕はパスするだろう。このホールではジャズの醍醐味やフィーリングを活かすことが出来ないと思うからだ。是非、武蔵野スイング・ホールで演奏してもらいたいと思ったものだ。   (2007.03.22)



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