独断的JAZZ批評 379.

e. s. t.
音楽的志向は全く異なるが、「美しさ、躍動感、緊密感」に溢れ、オリジナリティに優れる点は共通している
"VIATICUM"
ESBJORN SVENSSON(p), DAN BERGLUND(b), MAGNUS OSTROM(ds)
2004年8月〜10月 スタジオ録音 (215 RECORDS 215-2022)

JAZZ批評 371.の"TUESDAY WONDERLAND"は素晴らしいアルバムだった
来春の東京コンサートの前にもう1枚くらい聴き込んでおこうと思った
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1993年に結成されたE.S.T.は1995年のライヴ録音盤"E.S.T. LIVE"(JAZZ批評 81.)で一躍脚光を浴びることになる。それから10年以上を不動のメンバーで活動してきたという。1995年のアルバムに比べ、更にグループの濃密感は増して成熟したグループになった。「美しさ、躍動感、緊密感」、どれをとっても素晴らしく久々に出てきた大型ジャズ・グループという感を強くする。
2ヶ月ほど前に紹介した最新アルバム"TUESDAY WONDERLAND"(2006年録音)には度肝を抜かれた。そのアルバムを聴いたのと時を同じくして2007年の東京公演が発表になったので、即、チケットをゲットした。今回は2007年1月13日の東京公演を前に、もう1枚ほど聴き込んでおこうと思った。このアルバム"VIATICUM"も相当話題になったアルバムだそうで、2004年の録音だ。

@"TIDE OF TREPIDATION" 躍動するリズム。実に心地よい。このグループにはエレクトロニクスを巧みに使ったダイナミズムがある。こういう演奏こそ、このグループの真骨頂だろう。ウ〜ン、唸ってしまうね。素晴らしい!!この躍動するリズムを聴いているうちに、心もウキウキとしてしまうのだ。
A"EIGHTY-EIGHT DAYS IN MY VEINS" この曲もテーマのよさと躍動感でリスナーを魅了するに違いない。
B"THE WELL- WISHER" これも軽快なリズムに乗ってピアノが歌う。
C"THE UNSTABLE TABLE & THE INFAMOUS FABLE" まるでエレキ・ギターと思わせる音色が主役となっている。この辺の音作りは東京公演で、この目で確かめてみたいと思っている。

D"VIATICUM" この言葉をgoo辞書で引いてみると「(カトリック)聖糧(臨終の際に授かる聖体)」とある。哀しみに満ちたテーマだ。
E"IN THE TAIL OF HER EYE" これも美しいバラード。後半にはドラム・ソロが入るが、こういうのは、単純にドラムスのソロといっていいのだろうか?
F"LETTER FROM THE LEVIATHAN" 一転して重低音の定型パターンで始まるブラッキーな曲。
G"A PICTURE OF DORIS TRAVELLING WITH BORIS" アコースティックとエレクトリックの組み合わせが巧みで、分厚い演奏になっている。

H"WHAT THOUGH THE WAY MAY BE LONG" これまた隠しトラックというのだろうか?6分20秒で終了後、4分の間を置いて再び演奏が始まる。これは演奏といっていいのだろうか?それともノイズ?やがてだんだんと音楽の体を成してくる。それが延々と10分ほど続く。この空白の4分間にどういう意味があるのか僕には分からないが、結果として20分にも及ぶ長尺ものとなっている。"TUESDAY WONDERLAND"でも同様の趣向が見られる。

最近のe. s. t. のアルバム2枚を聴いて、僕はノックアウトされそうだ。KIETH JARRETTE TRIO、BRAD MEHLDAU TRIOに続く素晴らしいトリオが出てきたもんだ。音楽的志向は全く異なるが、「美しさ、躍動感、緊密感」に溢れ、オリジナリティに優れる点は共通している。全ての曲の作曲と編曲はe. s. t. の手で成されている。
このアルバム"VIATICUM"は、アグレッシブで動的な"TUESDAY WONDERLAND"(JAZZ批評 371.)に比べると幾分、内省的で静的な印象が強い。しかし、どちらのアルバムも曲の構成力もあって、飽きさせるということがない。どちらを選ぶかは好みの問題だろう。僕的にはメリハリの効いた"TUESDAY WONDERLAND"が好みであるが。
この2枚のアルバムは、ジャズは4ビートでなければ嫌だという人と、電気楽器は全て駄目という人にはお奨めしない。しかし、騙されたと思って一度聴いてみるのも一興だ。でないと、一生、聴かずに終ってしまうかもしれないから・・・。
来春の東京公演が益々楽しみになってきた。しかと、この目で確かめてこようぞ。今、僕はe. s. t. に首っ丈状態であることを認識しつつも、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2006.12.09)