独断的JAZZ批評 378.

早間 美紀
今後はその「歌心」を身につけて、更に言うと、アレンジの腕も磨けば、一皮も二皮も剥けるのではないだろうか?
次に期待したい
"PRELUDE TO A KISS"
早間 美紀(p), 北川 潔(b), ERIC McPHERSON(ds)
2006年8月 スタジオ録音 (ART UNION ARTCD112)


若くて能力の高いピアニシストが次々と輩出してくるのは嬉しい限りだ
ベテラン(?)のベーシスト北川潔がバックアップしているのも嬉しい
これは期待せずにいられない
*     *     *     *     *     *     *     *     *     * 

早間美紀は初聴きである。3枚目のアルバムということだが、リーダーとしては2作目にあたるらしい。何といっても、注目すべきはベースの北川潔の参加だろう。こういうベテランが入ることによってひとつの安心感がある。で、大いに期待した。
しかしである。世の中、そうそう上手くいかないもんだ。これが何とも、スキッとしないのだ。早間のテクニックは素晴らしいものがあると認めるのだが、何かが欠けているか、何かが余分なのかもしれない。全ての曲のアレンジは早間の手によるものらしい。このアレンジが面白くないといってしまえば、一言で片付いてしまうのだが・・・。例えばBにおけるベースの定型パターンで始まるアレンジなどはその最たるもので、全然面白くない。
A、C、D、F、Gの5曲、丁度半分が早間のオリジナルだ。はっきり言って心に響く曲がない。

余談だが、先日、小曽根真の"TRIO"のジャケットをみてたら若かりし頃の北川の写真が写っていた。髪の毛もふさふさとして「青春」していた。最近はサッカー選手とミュージシャンに坊主頭が多いが、これも当たり前になってきてしまった。北川さんももう一回生やしたらどうかなあ?なかなか男前だと思うのだけど・・・。

@"BEATRICE" 
A"AT THE KEY POINT" 
B"I LOVE YOU" 
北川のベースによる定型パターンで始まるが、このパターンが全然面白くない。曲のイメージともかけ離れて、滑らかさに欠ける。
C
"CANVAS IN BLUE" 北川のアルコは流石だ。日本人でもこれほどのアルコが弾けるプレヤーがいたとは!
D
"INTO THE SILENCE" 
E"SKYLARK" 
名曲一発であるが、響かないなあ。後半にフューチャーされる北川のベース・ソロはいいねえ。歌心があるよね。もしかして、早間に欠けているのはこれかもしれない。

F
"FROG DANCE" 詰まらないテーマだが、アドリブの超高速4ビートでは確かな腕前を披露している。ドラムスに難あり。北川のベースに完全に煽られているもの。しつこいようだけど、本当に詰まらないテーマだ。
G
"TAICHI'S PLAYGROUND" ・・・・ウ〜ン。
H"WHOSE SHOES" 
I"PRELUDE TO A KISS" 
ピアノ・ソロ。多分、このソロが一番早間らしさのでた演奏ではないだろうか?ベテランとの共演という呪縛から逃れたかな?

僕の評価尺度でいうと「美しさ、躍動感、緊密感」どれをとっても満足すべきものがない。気負っているという印象があるわけでもなく、かといって、淡々とした演奏でもない。なのに、心に残らない。こういうのを「空回り」と言うのかも知れない。
流石の北川のベースにもいつもの「しなやかさ」がないのも残念。
一流と言われるピアニストに共通しているのは「歌心」とその「表現力」なのかもしれない。早間の腕は確かなので、今後はその「歌心」を身につけて、更に言うと、アレンジの腕も磨けば、一皮も二皮も剥けるのではないだろうか?次に期待したい。ということで、今回は期待が大きかった分、辛目の採点になってしまった。次は「あっ!」と驚かせて欲しいものだ。

尤も、ライナーノーツの中で早間自身の言葉として「ジャズはとても深い音楽であり、私はいわゆる"ジャズのテイストが混じっている聴きやすい音楽"を作りたいとは思っていません。むしろ、その深みをを充分に楽しんでいただきたいです」とあるので、分かる人だけに分かってもらえればそれで充分ということなのかもしれない。   (2006.12.01)