独断的JAZZ批評 354.




GABRIEL ZUFFEREY
これは「中古の買取行き」かなと思っていた矢先、4日目に何かが弾けた
"APRES L'ORAGE"
GABRIEL ZUFFEREY(p), SABASTIEN BOISSEAU(b), DANIEL HUMAIR(ds)
2003年9月 スタジオ録音 (BEEJAZZ BEE 006)


ヨーロッパのドラムスの大御所、DANIEL HUMAILは1998年のMARTIAL SOLAL COMPETITIONで初めてこのGABIRIEL ZUFFEREYの演奏を聴いたそうだ。
そして2003年、当時19歳だったGABIRIEL ZUFFEREYと演奏を一緒することに・・・
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ピアノのGABRIEL ZUFFEREYは1984年生まれという。若手のピアニストとベテランのサイドメンの組み合わせ。プロデュースする側では著名なプレイヤーを入れて箔を付けたかったのだろう。それが、DANIEL HUMAILの参加ということなのだと思う。
この手の組み合わせは過去にも沢山ある。PETER ROSENDAL"LIVE AT COPENHARGEN JAZZHOUSE"(JAZZ批評 162.)はベースにベテランのMADS VINDINGを迎え、実に熱っぽい演奏を繰り広げていた。弱冠17歳の松永貴志の初リーダーアルバム"TAKASHI"(JAZZ批評 136.)もベテラン勢のしっかりとしたサポートで良いアルバムに仕上がった。
逆に超のつくベテランが若手と組み合うことで活き活きとしたアルバムに仕上がった好例としては、EARL HINESがRICHARD DAVISとELVIN JONESを従えた"HERE COMES EARL “FATHA” HINES"(JAZZ批評 44.)等がある。
いつの世でも、若手とベテランの組み合わせというのは尋常ならざる刺激を生んで来たのだと思う。
で、このアルバムであるが、結構、好き嫌いの分かれるところだろう。若者らしくないと言えば若者らしくない。超ベテランの趣さえある。とても19歳のピアニストの演奏とは思えない。それが良いか、悪いか?
因みにオリジナルが11曲。スタンダード・ナンバーは
CLの2曲のみ。基本的にどの曲も短めである。その分、食い足りなさが少し残る。

@"APRES L'ORAGE" 
先ずは御大、HUMAIRのドラムスで始まる思索的な印象を持つフリー・テンポの曲。この曲を聴いて先が思いやられると感ずる人も多いだろう。
A"SMILING" 今度は分かりやすいテーマだ。HUMAIRのシンバリングがアップ・テンポの4ビートを刻んだ後、ベースのソロを経てテーマに戻る。単純ではないが、充分、刺激的で躍動している。
B"REMINDER" 
ベースとドラムスのインタープレイの後、ピアノが絡んでくるが徐々にテンションが高くなっていく。でも、未だ沸点まで達していない。
C
"HERE'S THAT RAINY DAY" 重厚なと言うべきか、壮大なと言うべきか、スロー・テンポで1コーラス。重々しい演奏だ。19歳がこういう演奏するのか!

D"KYS" 
なんと大人びた演奏なのだ!
E"HURRY UP !" 
ピアノのタッチがクリアだ。HUMAILのドラム・ソロの後、一気にアップテンポの4ビートを刻む。少々短い2分半。
F"LA TSU" 
3者のインタープレイにスリルがある。ベースは手のひらで弦を叩いているのだろうか?
G"ENTRE DEUX, ENTRE TEMPS ET A TROIS TEMPS" 
HUMAIRの絶妙なシンバリングが僕らを気持ちよく酔わせてくれるワルツ。
H"REMEMBRANCE" 
I"JUST BEFORE" 
しかし、色々な曲想の曲を書けるなあ。ひとつの色に染まらない間口の広さと奥行きを感じさせる。
J"STRANGE" 
内省的な演奏だ。返す返すも19歳の奏でる演奏とは思えない。
K"LA BAL - HELENE" 
ベースのアルコで始まる内省的な演奏。
L"SKATING IN CENTRAL PARK" ベースがテーマを執る。続くピアノの演奏は軽やかなスケーティングとは言い難い。これでノリが良くなったら凄いピアニストになること、間違いなしだ。

実を言うと、このアルバムが良いなと思い始めたのは聴き出して4日目からだ。それまでは、もうひとつノリが良くないので、思索的、観念的なアルバムと感じていた。これでは「中古の買取行き」かなと思っていた矢先、4日目に僕の中で何かが弾けた。
このZUFFEREYというピアニスト、弱冠19歳でこの演奏とは、ある意味、末恐ろしいものがある。5年後、10年後の演奏に興味が尽きない。DANIEL HUMAILをもってしても、臆した感じはない。正々堂々と渡り合ったという感じだ。このピアニストからは目(耳)が離せない。
   (2006.07.21)

<ところで、思わぬ副産物を!>

前述のEARL HINES "HERE COMES ・・・・"(JAZZ批評 44.)の"THE STANLEY STEAMER"や"BERNIE'S TUNE"を聴いてみて欲しい。丁度、40年前の録音というのに、RICHARD DAVISのベースの音色が本当に凄い。最近のベーシストが忘れかけている音色だ。超ベテランと若手の組み合わせで引っ張り出したCDであるが、これは思わぬ副産物を生んだ。改めて、その凄さを体感した。