独断的JAZZ批評 331.


CHICK COREA
3人によるワンマン・パワー・プレイ
「凄い」とは思うけど、「いいねえ!」とは思わない
グループとしての一体感や緊密感に欠ける
"SUPER TRIO"
CHICK COREA(p), CHRISTIAN MCBRIDE(b), STEVE GADD(ds),
2005年4月 ライヴ録音 (UNIVERSAL UCCJ3014)

CHICK COREAの原点でもある名盤"NOW HE SINGS, NOW HE SOBS"から37年
甦るか!あの感動が?
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僕がジャズにのめり込むトリガーとなったアルバムこそ、37年前にこのCHICK COREAがピアノ・トリオの初リーダー・アルバムとして世に出した"NOW HE SINGS, NOW HE SOBS"(JAZZ批評 1.)であった。今回、この"SUPER TRIO"のアルバム・レビューを書くに際して、僕は1週間前から"NOW HE SINGS, ・・・"を改めて聴き直している。当時録音された曲が今回のアルバムに何曲か収録されていたからだ。
果たしてどんな感動を与えてくれるのか、それとも、期待は裏切られてしまうのか?

この"NOW HE SINGS, ・・・"は今聴いてもその瑞々しさを失っていない。やはり、永遠の名盤といわれるものは何十年の歳月を経ようとも、その輝きと瑞々しさを失わない力を持っている。
CHICK COREAというピアニストは、その有り余る才能ゆえに突き進むべき道を未だに見出せないでいるのではないかと僕は思っている。ある意味、何でも「出来てしまう」ことが、このプレイヤーの不幸というべきだろう。要するに、腰が据わっていないのだ。あっちへフラフラ、こっちへフラフラという印象を拭えない。フリー・ジャズをやっていたかと思うと、エレクトリック・バンドをやっている。そうかと思えば、同時並行的にアコースティック・バンドもやっている。その時代々々の話題になりそうなことや、リスナー受けしそうなことは何でもやってしまうということだろうか?
この点はひとつのことをより深く極めようとしているKIETH JARRETTEとは対照的だ。


@"HUMPTY DUMPTY" 
A"THE ONE STEP" 

B"WINDOWS" この曲と次の曲が"NOW HE SINGS, ・・・"で演奏されていた曲。
C"MATRIX" なんて詰まらない"MATRIX"なんだ!瑞々しさの欠片もない。"NOW HE SINGS, ・・・"のこの曲とは比べものにならないし、比べる意味もない。GADDのドラム・ソロあたりに来るともう聴くに堪えない。

D"QUARTET #2 PART 1" 
E"SICILY" 
F"SPAIN" 


演奏自体はさすが豪腕プレイヤーが揃ったという印象はある。しかし、どの演奏も面白くないのだ。「凄い」とは思うけど、「いいねえ!」とは思わない。グループとしての一体感や緊密感に欠ける。こういうアルバムは繰り返して聴くのが結構、苦痛だ。何しろ聴いていても楽しくないのだから・・・。
謂わば、「3人によるワンマン・パワー・プレイ」という感じなのだ。細かいことを言えば、GADDのドラミングには違和感がある。グイグイ前に突き進むような推進力がない・・・と言うよりも、まともな4ビートが叩けないのではと思ってしまうほどだ。
ベースのMCBRIDEとは以前、共演経験がある。"REMEMBERING BUD POWELL"(JAZZ批評 290.)がそれだが、この時のドラムスはROY HAYNESだった。

それにしても・・・と僕は思うのだが、CHICK COREAの容貌の変化というのは一体どうしたことか!ジャケットに挿入されている写真を見る限り、昔の面影は影も形もない。「この人、ピアニスト?」と疑問を呈したくなる。こんなに肥満してしまって、これでは感性溢れる瑞々しい演奏は期待できないと思った。こうした印象というのは2000年録音の"PAST, PRESENT & FUTURE" (JAZZ批評 5.)の頃から顕著になってくる。
結局のところCHICK COREAというピアニストはデビュー時の傑作を一生涯超えることなく終わってしまうのだろう。もう、期待するのはやめにしよう。
ところで、このアルバム・ジャケットの帯にはSJ誌のゴールド・ディスクのマークが印刷されていた。ヒエー!   (2006.04.04)

<追記:2006.04.05>
余談だが、辛島文雄の"GREAT TIME"(JAZZ批評 318.)を聴いていると、初期のCHICK COREAの影響を認める。特に@のブルース"LIKE BLUES FOR J.D."やGのCHICKのオリジナル"STRAIGHT UP AND DOWN"では若かりし頃のCHICKを彷彿とさせるものがある。若かりし頃のCHICKを伝承したのは本人ではなくて、日本人ピアニストだった。



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