BARRONが未だ発展途上にあるマイルストーン的アルバム
"SCRATCH"
KENNY BARRON(p), DAVE HOLLAND(b), DANIEL HUMAIR(ds)
1985年3月 スタジオ録音 (ENJA ENJ-4092 2) 

先日、都内の中古CDショップに入ったときに見つけた1枚。以前から気になっていたアルバム。メンバーを見るだけでゾクゾクするような顔ぶれだ。
KENNY BARRONは率直に言って、お気に入りのピアニストだ。特に、円熟味を増した最近の演奏に共感するものが多い。どちらかと言うと大器晩成型のピアニストだと思う。豊かなイマジネーション、卓抜したテクニックに円熟味が加わって、凄みが増してきた。
今回のアルバムは1985年録音であるから、売れっ子になる前の作品と言ってもいいかも知れない。

ベースのDAVE HOLLANDは、昔、CHICK COREAとユニットを組んでいた。当時、COREAはフリージャズのユニットを組んだりしていたが、そのメンバーの一人がこのHOLLAND。このベーシストも僕のお気に入りなのだが、この人のベースは強いビート感に溢れていている。特に、4ビートを弾かせるとそれだけで躍動感が沸々と沸いてきて力強い。JAZZ批評 21.のGARY BURTONのクインテットや27.のPAT METHENYのトリオでもなくてはならない存在感を示している。METHENY、ROY HAYNES、HOLLANDのトリオ・アルバムはMETHENY会心のアルバムと言えるだろう。

ドラムスのDANIEL HUMAIRと言えば、フランス・ジャズ界きってのベテラン・ドラマーだ。謂わば、大御所的存在だ。PHIL WOODSとの競演盤、JAZZ批評 52.でもその力量を遺憾なく発揮している。
これら3人がそれぞれの強い個性を発揮したアルバムと言えるだろう。

@"SCRATCH" 癖のあるテーマ。1980年代ならではの無機的な曲だ。
A"QUIET TIMES" 一転して美しい曲。HOLLANDのベースが利いている。しっかりとした躍動感もあり、緊密感もある。お奨めの1曲。
B"WATER LILY" タイトルのように可憐な花をイメージさせるワルツ。進むにつれ緊密感と高揚感が増してくる。曲の最後を締めくくるベースソロが良く歌っている。

C"SONG FOR ABDULLAH" ピアノ・ソロ。そうか!この曲は1985年の当時にも既に演奏していたのだ。こんなに美しい曲を作れるということだけでBARRONの才能の豊かさが分かるというものだが、是非、JAZZ批評 147.のソロと比較して聴いてみて欲しいと思う。17年の歳月が流れて、同じ曲を同じスタイルで演奏したときに、さて、どんな違いが表れるのか?若々しさと鋭さとガッツを感じる1985年の演奏と、円熟味を増し艶と深みのある2002年の演奏を聴き比べてみて欲しいと思う。僕?勿論、後者を採りますね。

D"THE THIRD EYE" 
E"JACOB'S LADDER" ベースのHOLLANDのオリジナル。アドリブでのHOLLANDのウォーキングとソロがスウィングしていて耳に快い。
F"AND THEN AGAIN" ブルース。ミディアム・ファーストで軽快にスタートするが、途中から雲行きが怪しくなってくる。ブロー気味にピアノが吼える。

1980年代というのはロックやフリージャズに電気化がごちゃ混ぜになり、結構難しい時代だったと記憶している。いわゆる名盤といわれるアルバムの少ない時代でもある。テーマが無機的で、深い味わいに欠ける。そんな面影が@やDに投影されているように思う。
謂わば、BARRONが未だ発展途上にあるマイルストーン的アルバム。この後、1990年代に入るとご存知のような大活躍を見せてくれるのだ。   (2004.07.24)



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KENNY BARRON

独断的JAZZ批評 209.