「古くて、新しい。良いものは長い年月を経ても朽ちることがない。」
そんなことを感じさせる1枚。
"PIKE'S PEAK"
DAVE PIKE(vib), BILL EVANS(p), HERBIE LEWIS(b), WALTER PERKINS(ds)
1962年2月 スタジオ録音 (EPIC/SONY RECORDS ESCA 7647) 

先日、ジャズ・フリークの友人と久しぶりに酒を飲んだ。
中年にありがちなさっぱりした料理で日本酒を酌み交わした。帰る前に、もう1軒寄っていこうということになって、その友人が東京・町田の、とあるジャズ・バー"Nica's"に案内してくれた。
アナログLPが壁面一杯に収納されていた。リクエストが出来るという。嬉しいではないか!リクエストなんて、何十年ぶりのことか!バーボンのオン・ザ・ロックを飲みながらリクエストをすることにした。

僕がリクエストしたのは"HERE COMES EARL "FATHA" HINES"(JAZZ批評 44.)。この時は無性に躍動感の溢れるRICHARD DAVISのベースが聴きたかったのだ。
で、友人がリクエストしたのが、このアルバム。DAVE PIKE(vib) のクアルテットの演奏だ。ピアノがBILL EVANSという取り合わせも興味深い。結局、もう一度、聴いてみたいと思い、購入してしまった。
EVANSにとっては、1961年の7月に盟友SCOTT LAFARO(b)を亡くして、CHUCK ISRAELを迎えるまでの空白の期間に吹き込まれたものだ。EVANSの足跡を知る上でも重要なポイントとなるアルバムだ。
当時の多くのグループがそうだったように、ベースとドラムスはサポート役に徹しているし、あまり、表にしゃしゃり出ることはない。堅実なサポートが躍動感を一層高めている。

@"WHY NOT" いきなりの躍動感がいやが上にもこのアルバムへの期待感を高めてくれる。前ノリのベースをドラムスがキープ。EVANSのバッキングが素晴らしい。スウィンギーなサポートに支えられて、PIKEのヴァイブが踊る。口ずさむとも、歌っているとも言えるPIKEの声が生々しい。
誰が言ったか知らないが、EVANSのピアノは耽美的だとか叙情的だとか言われるが、この演奏を聴く限り、充分スウィンギーだしビ・バップしている。右手中心のシングル・トーンに、時折、ブロック・コードが絡む。ベーシックなベースのソロを挟んでテーマに戻る。

A"IN A SENTIMENTAL MOOD" D. ELLINGTONの手になる名曲。ヴァイブにベスト・マッチングの曲かもしれない。物憂げな雰囲気が良く出ている。1回目はヴァイブ中心に聴いて、2回目はピアノを中心に聴いていみるのも面白い。EVANSのバッキングとソロを堪能あれ!こういうピアノを聴いているとやはりEVANSは凄いと惚れ直すのだ。

B"VIERD BLUES"
 
C"BESAME MUCHO" ミディアム・テンポの「ベサメムーチョ」。ラテン系ムード音楽の雰囲気はまるでない。爽やかでノリが良い。最後にドラムスのソロがあるが、元気で陽気だ。
D"WILD IS THE WIND" メランコリックなバラード。これが背筋をゾクゾクとさせてくれるんだなあ。ヴァイブという楽器に相応しい曲想。気だるい雰囲気の中にきらりと光るヴァイブとピアノ。

40年以上経った今も、刺激に満ちた演奏でいつまでも飽きることがない。むしろ、今までにない「新鮮さ」を感じるのは僕だけではないだろう。「古くて、新しい。良いものは長い年月を経ても朽ちることがない。」そんなことを感じさせる1枚。PIKEのメランコリックなヴァイブと研ぎ澄まされたEVANSのピアノの妙と言っても良いだろう。
「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2004.07.17)
 


DAVE PIKE

独断的JAZZ批評 208.