曲目は単なる素材に過ぎなかった
その素材を好きなように味付けし、
極上の料理に仕立て上げたのは3人のプレイヤー達だった
"LES PARAPLUIES DE CHERBOURG"
JAN LUNDGREN(p), JESPER LUNDGAARD(b), ALEX RIEL(ds)
2003年12月 スタジオ録音 (MARSHMALLOW-RECORDS MMEX-102) 

「こよなくロマンティック、限りなくセンチメンタル、ヤン・ラングレンの新作は映画音楽集!!」というのがジャケットの帯に書かれた謳い文句。本当にそうだろうか?このCDにロマンティックやセンチメンタルだけしか感じることが出来ないとしたら、これは不幸なことだ。このCDの素晴らしさの半分も理解できないに等しいと、僕は思う。
確かに演奏曲目は映画音楽として伝承されてきたものに違いないが、一方で、紛れもないジャズ・スタンダード曲集なのだ。制作側には「売らんがな」の目的に即したヘッド・コピーがあるのだろうけど・・・。これではね!
僕は言いたい!先ず、映画音楽としての先入観を捨てること。このアルバムはジャズ・スタンダード集だと認識して聴いて欲しい。そして、この濃厚にして、程なく、スパイスの効いた演奏を堪能して欲しいと思うのだ。
メンバーは既掲載のアルバム(JAZZ批評 185.152.)と同じ。ヨーロッパ屈指のリズム陣とのコラボレーションだ。
JAN LUNDGRENのピアノにはハード・バップの匂いがするしピアノのセンスも良い。ベースのJESPER LUNDGAARDは最近掲載のTOMMY FLANAGANのトリオ(JAZZ批評 202.)でもFLANAGANの新たなる一面を見事に引き出してみせた。ドラムスのALEX RIELはこのグループに欠かせない、地味だけど堅実でセンシティブな存在だ。


@"UNDER PARIS SKIES"
 邦題「パリの空の下で」。軽快なワルツのビートに乗ってピアノが歌う。アドリブに入ってからがまた、良いんだなあ。快いスウィング感に酔いしれて欲しい。ベース〜ドラムスのソロを経て、テーマに戻る。
A"BOY ON A DOLPHIN"
 
B"SINGIN' IN THE RAIN" 「雨に唄えば」。イントロに「甘さ」が見えるが、これを捉えて「ロマンティックとかセンチメンタル」とは言えない。アドリブに入ると躍動感のある楽しい演奏に変わる。ベースのウォーキングがゴリゴリと唸り、ブラッシュがサクサク刻み、ピアノが楽しげに歌う。
C"THEME FROM "DES GENS SANS IMPORTANCE""
 

D"I WILL WAIT FOR YOU" 邦題「シェルブールの雨傘」。ピアノのイントロに始まり、ベースとドラムスが絡み始めるその瞬間がスリリング。ゾクゾク・ワクワクする一瞬だ。インタープレイの極致。この緊張感と躍動感!ジャズっていいなあとしみじみ思う。これぞ、この3人がやりたかった音楽なのだ!この1曲だけでも、このアルバムの価値は充分にあると僕は思う。何回も繰り返し聴きたくなる1曲。

E"AUTUMN LEAVES" 今度はストレート真っ向勝負。飾り気はない。いきなり剛速球のストレートが飛んでくる。ややもすると、こういう聞き古されたスタンダード・ナンバーは色々と小賢しく手を加えたくなるものだが、敢えて、それをしないその勇気と自信に喝采を!ベースが吼えて、ドラムスがキープ。そこをピアノが跳ねる。痛快ですらある。

F"CABIN IN THE SKY"
 
G"LAURA" 
H"NO PROBLEM" DUKE JORDANの名曲。ボサノバ調で進むが、泥臭さを伴っていて良い。サビの8小節で4ビートが利いている。
I"LOVE IS A MANY SPLENDORED THING" インテンポになってからのベースのウォーキングが利いている。甘さだけに終わらない躍動感ある演奏で最後を閉じる。緊密感と一体感溢れる演奏だ。

映画音楽集としたかった制作側の意図があるのだろうけど、ここで繰り広げられる音楽は紛れもなくプレイヤーが曲に対する深い理解と願望を実現した音楽だ。曲目は単なる素材に過ぎなかった。その素材を好きなように味付けし、極上の料理に仕立て上げたのは3人のプレイヤー達だった。
「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2004.06.23)

試聴サイト:https://www.youtube.com/watch?v=RJJt9X0oskY



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JAN LUNDGREN

独断的JAZZ批評 204.