聴き込むほどに味の出てくる1枚
"WALTZ FOR DEBBY"
DON FRIEDMAN(p), GEORGE MRAZ(b), LEWIS NASH(ds) 
2002年スタジオ録音(EIGHTY-EIGHT'S VRCL6010)

FRIEDMAN/MRAZコンビの最新作となると、いの一番に購入したくなるというものだ。DON FRIEDMANというピアニストは過小評価されている一人だと思う。MRAZとの絶妙なインタープレイを披露した1978年録音の"LATER CIRCLE"(JAZZ批評 85.)など名盤が少なからずあるのだが、何故か評価が低い。その上、これほどの名盤が未だに復刻されないという悲しい状況だ。

このCDは2002年の5月にNEW YORKで日本人によってプロデュースされたらしい。10曲中4曲がFRIEDMANの手によるオリジナル。残りがスタンダード・ナンバーでタイトル曲や"THE SHADOW OF YOUR SMILE"や"OLD FOLKS"などの有名曲が配置されている。如何にも日本人好みの選曲だ。

@"35 W.4th St." 軽快なテンポで4ビートを刻む。MRAZのベース音にいつもの艶と伸びがないのが残念だ。これは録音のせいだと思うけど・・・。
A"I CONCENTRATE ON YOU" COLE PORTERの曲。
B"WALTZ FOR DEBBY" タイトル曲。文字通りのワルツ曲だが、アドリブは4/4で演奏している。耽美に溺れず切れの良い演奏に終始している。
こういうタイトルをつけると日本人は弱いのだろう。BILL EVANSの人気盤にあやかった同名タイトルCDが巷に溢れることになる。

C"BUD POWELL" CHICK COREAのオリジナル。"REMEMBERING BUD POWELL/CHICK COREA AND HIS FRIENDS"の中でも演奏されている。NASHのシンバリングが快い。MRAZのベース・ソロもいつもの通りよく歌っている。
D"YOU MUST BELIEVE IN SPRING" MICHEL LEGRANDの美しい曲。
E"BLUES IN A HURRY" アップ・テンポのブルース。こういう曲にこそMRAZの強靭なウォーキング・ベースが輝きを増す。グイグイ引っ張るドライブ感が素晴らしい。NASHのドラミングも今までの憂さを晴らすかのようにガッツ溢れるプレイを披露する。

F"THE SHADOW OF YOUR SMILE" 「いそしぎ」を軽快なボサノバのリズムで。
G"FLAMANDS" このCDの中のハイライト。FRIEDMANの手になるこの曲、テーマが面白い。泥臭いテーマにMRAZのベースが香辛料のように効いている。FRIEDMANの作曲家としての能力の高さを印象付ける1曲。
H"FROM A TO Z" これもFRIEDMANの哀愁を帯びたオリジナル。この曲は"PRISM"
(JAZZ批評 80.)でも演奏されている。
I"OLD FOLKS" 最後はピアノ・ソロ。最近、ピアノ・トリオ盤では、このパターンを結構見かける。最後はしっとりと聴き入って欲しいということだろうか。

全体を通して手堅くまとまっていると思う。ただ、何か食い足りない感じも残ってしまう。スタンダード・ナンバーに聴き古された有名曲が多いこともひとつの原因だろう。こういった曲が多くなると緊迫感とかスリルというものが希薄になり易い。そういう意味でも、C、EとGはFRIEDMANのイメージを払拭するに足りる好演曲だと思う。       (2003.01.25)

<追記>
聴き込むほどに味の出てくる1枚。以前にも書いたが、C、EやGのような泥臭い曲にFRIEDMANのイメージを払拭するに足りるその良さが集約されている。今となっては、このアルバムは僕の愛聴盤になっている。特にJAZZ批評 132.JAZZ雑感(8)「マイ・ベスト・チョイスを選ぶなら」ではこのアルバムからD、EとGの3曲を選んでいる。確かに聞き古されたスタンダード・ナンバーが多いのも事実。しかし、決して陳腐ではない。上記3曲とともに質の高いアルバムに仕上がっている。
改めて、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加することにした。   (2003.10.05)



DON FRIEDMAN

独断的JAZZ批評 119.