『出稼ぎ野郎』['69](監督 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー)
フリーペーパー「シネマ・スクウェア」2014.4月号掲載
[発行:シネマサンライズ]


 二月に僕が観た映画は25本。そこから特筆すべきものとなると、やはり県立美術館によるライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督特集が筆頭に浮かぶ。そして、TOHOシネマズではアカデミー賞もこういう作品をノミネートするようになったかと隔世の感のあるパワフルで下品な快作アメリカン・ハッスルウルフ・オブ・ウォール・ストリート、あたご劇場では同種の邦画とも言える凶悪ということになる。日米とも世の中が荒んできたというか、身も蓋もない有り体を悪びれなくなった時代の風潮を反映しているような作品が目立った。

 そんななか取り上げたい一本は、ドイツ映画の『出稼ぎ野郎』['69]だ。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督特集で上映された最初期の映画だが、先に挙げた現代作の先取りをしているようにも映る作品だった。半世紀近く前の映画ながら、いま日本で“ネトウヨ”などと呼ばれている連中のメンタリティというのは、まさしくこういうものなのだろうという気がして、実に興味深かった。

 ドイツのほうが高賃金だからと出稼ぎに来る外国人が就くような職には見向きもせずに、無職のまま口先ばかりの日々を自堕落に過ごし、その場しのぎの金稼ぎやたかりをしていて、DVまがいのいきがりや外国人に対する敵愾心を日頃溜め込んでいる不満の捌け口にしている様子が、有り体に身も蓋もなく描かれていた。この作品でのイタリア人やギリシャ人を韓国人や中国人に置き換えてみると実に分かりやすい。そういう点では、本作の製作当時よりも今のほうが日本では理解されやすい作品かもしれないと思った。

 しかしながら、表現的などぎつさで言えば、アングラ色が強く感じられる『出稼ぎ野郎』のほうがむしろ穏やかで、アングラどころか歴然としたメジャーな作品である現代作のほうが、ヤバい感じが強く出ているように感じられた。こうなってくると、アングラ文化などというものがなかなか成立しなくなっているような気がする。昨今、文化が非常に痩せてきているように感じられるのは、そんなところにも理由があるように思った。

by ヤマ

フリーペーパー「シネマ・スクウェア」2014.4月号



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