『みなさん、さようなら』(監督 中村義洋)
フリーペーパー「シネマ・スクウェア」2014.2月号掲載
[発行:シネマサンライズ]


 一月に僕が観た映画は20本。そこから特筆すべき作品となると、やはり琉球朝日放送が制作し自主上映で公開された標的の村なのだが、この紙面の字数では中途半端になるので触れない。TOHOシネマズでは食指の動く作品が少なくてあまり観ていない。目立ったのは、あたご劇場での『オース!バタヤン』で劇場内がいつもと打って変わり何十人もの観客がいて、「おかえり!バタヤン 田端義夫 オン ステージ」と街の葬儀屋さんが書いたという横断幕の掛かった北鶴橋小学校の体育館の様子とちょうど同じ感じになっていたことだ。驚きつつ、高齢者にとって如何に絶大なるスターだったのかと改めて感心した。

 そんななか取り上げたい一本は『みなさん、さようなら』だ。同じタイトルの外国映画['02]は、一筋縄ではいかない含蓄の豊かな作品だったが、本作もなかなかのもので、同じ濱田岳の出ている中村監督のフィッシュストーリー['09]を想起させるような奇抜さと、それとは相容れぬはずの情感に富んだ、思いのほか面白い作品だった。

 『キッズ・リターン 再会の時』でも目を惹いた倉科カナがなかなかよくて、「女はね、自分だけが分っている魅力に弱いの」という殺し文句にやられた(笑)。原作にあるのか脚色によるものか、いずれにしろ、覚えのある言葉なのだろう。波瑠の演じた松島有里のキャラもよく造形されていたように思う。マリア(ナオミ・オルテガ)の指摘を待つまでもなく、魅力的だった。

 団地のシンボライズしているものが非常に多義的であるように感じられ、同時に18年間で遂に107人が0人になった小学の同期卒業生の象徴しているものも意味深長だった。記録映像で映し出された'60年当時の団地というのが、そのまま'81年そして'99年にも繋がっていたように思うから、古い記録映画風に撮った拵え物なのか現存しているのかちょっと気になった。

 それはともかくとして、けっこう真面目に“生きること”の意味や甲斐、悲喜こもごもを問いかけてくるようなところのある作品で、感心させられた。

by ヤマ

フリーペーパー「シネマ・スクウェア」2014.2月号



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