『おだやかな日常』(監督 内田伸輝)
フリーペーパー「シネマ・スクウェア」2013.12月号掲載
[発行:シネマサンライズ]


 十一月に僕が観た映画は23本。そこから特筆すべき作品となると先ずは、いまTOHOシネマズで上映中のかぐや姫の物語が筆頭に浮かぶ。そして、オフシアター上映では県立大のチームシネマフィロソフィア3.11やエスパス・リエゾンの取り上げた福島原発事故に焦点を当てた作品群。TOHOシネマズで観た外国映画に目立ったものはなかったが、日本映画では他にも地獄でなぜ悪いがあり、『ペコロスの母に会いに行く』を未見のあたご劇場からは乱れ雲['67]ということになる。独立行政法人国立美術館による優秀映画鑑賞推進事業が街なかの興行館で実施されるとは夢にも思わなかったが、支配人によると国立美術館のほうから打診があったらしい。いかにも旧作邦画を上映するに相応しい小屋の佇まいが目を引いたのかもしれない。

 そんななか取り上げたい一本は『おだやかな日常』だ。原発問題に目を向けた作品の多くがドキュメンタリー映画で福島を捉えているなかで、東京を舞台に劇映画にしたことで却って焦点が鮮明になっている秀作だ。

 ドキュメンタリー作品の『普通の生活』を観たとき、“家族のなかでの受け止め方の相違”で一家が離散せざるを得なくなっているケースのやりきれなさが後に残ったのだが、地域社会のなかで起こったこととしても、この問題にはとても深刻なものがあって、東京においてもこういうことが起こっていたことを僕らは決して忘れてはいけないように思う。だが、こうして改めて突きつけられてみると、風化の速度の凄さには恐るべきものがあるとつくづく思わされた。

 それだけの迫真性が作品に宿っており、時が経つほどに値打ちの上がってくる映画のような気がする。サエコ(杉野希妃)とユカコ(篠原友希子)を演じた二人の女優が素晴らしく、危機というものに対する女性たちの感度の高さに恐れ入りつつ、不安に見舞われ、心が壊れかけている危うさに、思わず固唾を呑んだ。

by ヤマ

フリーペーパー「シネマ・スクウェア」2013.12月号



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