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ヤマさんの ここに注目!('08) | |||||
とさ・ピクかわら版掲載 [発行:とさりゅうピクチャーズ] | |||||
『犯人に告ぐ』 メディア社会が進むなかで、犯罪や政治に限らず、何かにつけて“劇場型”と形容される現象が目につくようになってきているけれども、とうとう犯罪捜査までもが“劇場型捜査”として展開されるさまを描いた作品のようだ。劇場型捜査という言葉自体は、この『犯人に告ぐ』という作品のなかでの造語らしいが、現代は、恋愛という最もプライヴェートな領域に属するものさえ“劇場型”の潮流と無縁ではないからこそ、「恋愛観察バラエティーあいのり」のようなTV番組が成立するのだろう。そういった意味でのアクチュアリティをどれだけ宿しているかが、この作品の一番の注目どころだ。 原作は、雫井脩介の同名ベストセラー小説とのこと。めっぽう面白いらしいが、映画化されるなかで、きわもの作品として観られるようなリスクをどう回避しているのか、或いは果敢に挑戦しているのかが楽しみで、宮部みゆきの『模倣犯』を映画化して非難囂々だった森田芳光監督作品のことを“劇場型”というキーワードから、思い出した。僕は映画の『模倣犯』をかなり高く買っているのだけれども、そのあたりのズレからすると、映画『犯人に告ぐ』の世評の高さが却って心配だったりしている。('08. 1.11/12.号) 『14歳』 三年前に『ある朝スウプは』を観て、自主製作映画とは思えない充実ぶりに驚嘆し、すぐさま未見の『さよなら さようなら』を観たくて仕方なくなった映像ユニット「群青いろ」の劇場デビュー作。だから、僕にとっては、まぎれもなく必見作なのだが、彼らが自主製作の枠を越えた場で、どんな映画を撮り上げたのかが、僕の一番の注目どころだ。 今回の監督は廣末哲万だが、彼は高知の出身で、二日目には監督トークも用意されているのがまた嬉しい。『ある朝スウプは』で登場人物の心の襞を見事に画面に捉えていた彼らが、“14歳”という最も多感で揺れ動く微妙な年頃をどのように描いているか、とても楽しみだ。そして、26歳の若き大人たちに、どのような照射を与える物語を紡いでいるのだろうか。 勝手な予見だが、きっと『台風クラブ』('85 相米慎二監督作品)を越えているに違いない!などと思っている。('08. 6.6/7.号) 『丘を越えて』 とさピクが上映会の根拠地にしている自由民権記念館が、八年前に開館十周年記念展として「ニッポン・モダン・ライフ100年」と題する資料展を行い、併せて“モガ・モボたちの映画祭”を開催したことがある。昭和初期当時に現代風の若者の呼称として流行した“モダンガール・モダンボーイの略称”を掲げていたわけだが、ちょうどその頃を描いた作品で、池脇千鶴の演じる葉子のモガのありようが、僕の一番の注目どころだ。 僕のなかでは、文学者として以上に、文壇のボスとして君臨していたイメージの強い菊池寛だが、彼の秘書だった実在女性をモデルにした原作の映画化作品らしい。OLという言葉が登場する前のBGがどのように描かれているかが興味深い。どんなふうに当時の男社会に向かっていたのかを窺わせてくれるなら、楽しみだ。おそらくは、菊池寛がその強大な男社会の功罪を併せて仮託されているのだろう。彼女が越えようとする丘が菊池寛すなわち男社会ということでのタイトルなんだろうと想像している。まるで外れていたら、それはそれで楽しみなんだけど。('08.7.11/12.号) | |||||
by ヤマ '08年. とさ・ピクかわら版「ヤマさんの ここに注目!」 | |||||
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