『卒業』(The Graduate)['67]
『小さな恋のメロディ』(Melody)['71]
監督 マイク・ニコルズ
監督 ワリス・フセイン

 今回の合評会のカップリング・テーマは“映画と音楽に魅せられて🎶-逃避行、でも不安なこの先-”と題する二本で、主宰する映画部長の肝煎り作品ながら、僕自身は、さほど高く買ってはいない映画だった。

 サイモンとガーファンクルの歌う♪サウンド・オブ・サイレンス♪で始まり終える『卒業』を観るのは、大学を卒業して郷里に戻ってまだ一年も経たない頃に名画座で『フォクシー・レディ』との二本立てを観て以来だから、四十三年ぶりになる。帰郷した際に僕自身はベンジャミン・ブラドック(ダスティン・ホフマン)ほどに持て囃され、玩弄されたりしなかったが、彼と同じく人生に対して平凡では嫌だと思うところのある若輩ではあり、かなり出鱈目な日々を過ごしたものだ。それだけに却って、ベンの幼稚さというか馬鹿さ加減に呆れ返り、若気の至りとさえ言えないような、まるで考えのない支離滅裂で無神経な言動に苛立った覚えがある。

 また、不可解さを体現している点では同じでも、娘のエレーン(キャサリン・ロス)より、翳りを抱えたMrs.ロビンソン(アン・バンクロフト)のほうに惹かれたように思う。半世紀近くを経て観直すと、キャサリン・ロスも悪くはないと思ったが、やはりアン・バンクロフトだ。クレジット・トップが彼女になるのも道理だと思った。熱情なき結婚によって美術の学究を断念し学生結婚をした彼女の抱えている屈託と自負をよく体現し、小娘には出せない魅力を発揮していたように思う。意外だったのは、♪Mrs.ロビンソン♪が流れるのは、ベンが彼女と情事を重ねていた場面ではなく、彼がエレーンに執着し始めてからだったことだ。巧みな編集によってMrs.ロビンソンとの逢瀬の日々を描いている場面で流れたのは、専ら♪サウンド・オブ・サイレンス♪であり、最後にいかにも意味深長に♪四月になれば彼女は♪が流れていた。そして、エレーンの場面は主に♪スカボロフェア♪のほうだった。

 それにしても、ベンジャミンが二十歳で四年制のカレッジを卒業していることに驚いた。とてもそれだけの秀才とも思えぬ間抜けさだったが、事は学業とは別物としたものだ。二十一歳の誕生日の贈り物は、潜水服よりロビンソン夫人のほうがいいに決まっている。なにゆえ取って付けた潜水服なのかとも思ったが、僕自身にも覚えのある“自由気ままな大学生活からの帰郷に伴う窒息感というか息苦しさ”を象徴させるとともに、ベンの頓馬ぶりを視覚的にも印象づけつつ、コミカルな意匠を施す演出だったのだろう。


 続けて観た『小さな恋のメロディ』は、二年ほど前に観て記録にも残ってないし、未見だと思って録画したものだけれど、観終えて、どうもテレビ視聴かなんかしているのではないかという気がした。本作に強い思い入れを抱いている同世代の者が数多くいるようだけれど、タイミングを外したせいか、それほどのものとも思えない。墓場を「いいところね」と言えるような夢心地に同調できるか否かなんだろうなぁ。ダニエル・ラティマー(マーク・レスター)が、メロディ・パーキンス(トレイシー・ハイド)と過ごしている時よりも、トム・オーンショー(ジャック・ワイルド)と連れこっているときのほうが、断然楽しそうに映ってくるところに自分の現年齢を改めて感じた(苦笑)。公開当時に観て、強い印象を残している『フレンズ』をいま再見すると、どんなふうに映ってくるんだろう。観てみたいような、止めておいたほうがいいような(笑)。とのメモを残している作品だ。

 こちらもまた、ビージーズの歌う♪メロディフェア♪や♪若葉のころ♪、買った覚えもないままに自室にLP盤のレコードがあるクロスビー,スティルス,ナッシュ & ヤングの♪Teach Your Children♪が流れなければ、これほどの支持は得られてないのではないかという気がしてならないところは、『卒業』にも通じるものがあるように思われる作品だ。十歳余りのダニエル&メロディ、二十歳過ぎのベンジャミン&エレーン、どちらの物語も大人は判ってくれないと言わんばかりの話だったように思うが、その意味では、先立つトリュフォー作品['59]のほうが数段、優れているような気がする。

 バスに乗って逃げ出す『卒業』とトロッコに乗って逃げ出す『小さな恋のメロディ』、どちらを支持するかと強いて求められれば、Mrs.ロビンソンのいた『卒業』となりそうだが、合評会では『小さな恋のメロディ』のほうが支持を集めそうな気がした。


 そしたら、意外にもメロディがエレーンを圧倒するという結果にはならず、作品的には『卒業』だけれども支持は『小さな恋のメロディ』という者が二人で、トレーシー・ハイド以上にビージーズにより『小さな恋のメロディ』という者が一名。『卒業』のほうを支持するとしたのは、案の定、僕だけだった。《卒業》はあの身勝手な毒婦にイラッ💢ときますとの意見や、若い時分に観たときは『卒業』もよかったけれど、再見するとさっぱりだったという意見さえあった。登場した人物がろくでもないという点では確かに顰蹙ものの『卒業』ではあるのだが、'60年代当時は、いわゆる“良識を打ち壊すアクション”をロビンソン夫人やベンジャミンを通じて描くことに意味があったのだろうし、その点が支持されたのではなかろうかと言ったら、そういう意味では『小さな恋のメロディ』にも所謂、体制批判的なものが爆弾テロのパロディのみならず描かれていたことが欧米での不興を買ってヒットせずに、日本や南米で興行的に成功したようだと教えられ、同じようなことが奏功したり不興に繋がったり、興行というものは実に運否天賦だと改めて思った。また、日本だと判りにくい顰蹙として『卒業』の最後の教会場面での十字架の扱いに係る指摘もあって、引き抜いて振り回すばかりか、扉の閂に使う不埒が痛烈だったとも教えられ、面白かった。

 名高い映画として残っている作品だけあって、語り処は多々あるわけだが、部長の『卒業』と『小さな恋のメロディ』に当たる映画は、僕だと何になるかと言えばロミオとジュリエット『フレンズ』だなと思った。いずれも音楽が好くて、『フレンズ』はエルトン・ジョンだったし、『ロミオとジュリエット』の♪What Is A Youth♪は、ニーノ・ロータだ。四作品とも“大人は判ってくれない”青春の恋を描いた作品で、青春を彩る映画に音楽は欠かせないと改めて思った。

 すると『小さな恋のメロディ』を見送りながら『フレンズ』を観ている僕に『フレンズ』は観たんや(笑)。やっぱりアニセー・アルビナの破壊力ですかね?😄と旧知の映友女性がコメントしてくれたことに映画部長が喜んでかわい子ちゃんとヌードには弱いのかもよ。オリビア・ハッセーも脱いでたしねなどとすかさず添えたので、アニセー・アルヴィナ、好いですね~。『快楽の漸進的横滑り』でも透明感のある表情と肢体が実に美しかったなぁ。と返した。この機会に『フレンズ』も『続フレンズ』と併せて再見してみようかと思ったが、『続フレンズ』のほうはディスクになっていないらしい。少し後輩になる件の映友女性からは私の『小さな恋のメロディ』は、ジョージ・ロイ・ヒルの『リトル・ロマンス』だなと思い当たりました。私の『卒業』は何かな?『プリティ・ベビー』かな?とも寄せられた。

 ダイアン・レイン【ローレン】の『リトル・ロマンス』は、かねてより未見の我が宿題映画だ。メロディ['71]、ミッシェル['71]、ローレン['79]だから、確かに互いの年齢に見合っている。となると、先輩世代の作品たる『卒業』['67]、『ロミオとジュリエット』['68]に相当するのは、彼女の場合は何になるのだろう。『プリティ・ベビー』['77]だから、少し微妙な気がする。音楽がどうなっているかも気になるところで、この際、このカップリングで課題作にするよう、部長にねだってみたくなった。いつの時代のどの世代にも“先輩世代の映画と同時代作品”については各人各様の青春恋愛映画がきっとあることだろう。
by ヤマ

'24. 4.14. DVD観賞&BSプレミアム録画



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