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『リボルバー』['88] 『ダブルベッド』['83] | |||||
監督 藤田敏八 | |||||
藤田監督による秋吉久美子三部作の映画日誌に「どうも相性がよくないのかもしれない」と記してあるのだが、『リボルバー』が唯一の例外であることを四半世紀ぶりに再見して改めて感じた。ままならぬ人生の運不運、ツキ、巡り合わせや縁といったものを味のある構成で綴っていて、かなり特異な出来事をしみじみと愛すべきものとして見せてくれていたような気がする。 不意を突かれて拳銃を奪われ警察を辞した清水巡査部長(沢田研二)と海水浴場で人違いして彼の背中にサンオイルを塗ったバーのホステス節子(手塚理美)、見合いでのぼせてしまった山川亜代(南條玲子)と清水巡査部長、不倫相手の部下の結婚に逆上した阿久根康男(小林克也)と部下の有村美里(吉田美希)、鹿児島まで逃げてきたホステスの池上美希(倉吉朝子)と北海道から追ってきたバーテンの石森(山田辰夫)、美希を石森が強姦する現場を公園で目撃したことによって石森から袋叩きにされた高校生の出水進(村上雅俊)、石森への報復を期する出水と彼に心寄せる佐伯直子(佐倉しおり)、大分の競輪場で大穴を当てて知り合った縁で各地の競輪場行脚を始めた蜂矢(柄本明)と新(尾美としのり)、年代も性別もさまざまな二人の組み合わせが登場して袖振り合うも他生の縁的な交錯をしていくのだが、外形的には浅からぬ関わりを持ちながらも、互いの間の距離感に程の好さのある組み合わせと、囚われに執着する組み合わせの対照がなかなか効いていたように思う。 濃密な関係のなかにこそ、ある種の淡白さとケジメが求められることがさりげなく描き出されていたような気がする。保身や釈明にはまるで関心がなく、山川亜代の心中を見誤っていた自身に対する“落とし前”として、自分が迂闊にも拳銃を奪われたことで結果的に彼女を受刑者にしてしまったことへのケジメをつけようとする清水の選択と、それを受容する節子の気構えの潔さが心地好かった。また、流れ弾に当たって恨むこともなく、不運をツキに変えて勝負に挑もうとする蜂谷に感じる病膏肓と清々しさも、なんだか馬鹿っぽく気持ちよかった。 僕がこれまでに観ている藤田監督作品は、他には『八月の濡れた砂』『八月はエロスの匂い』『エロスは甘き香り』『スローなブギにしてくれ』『ダイアモンドは傷つかない』『海燕ジョーの奇跡』なのだが、そのなかでは本作がイチバンであることを再確認した折から、手元にある未見作『ダブルベッド』を観てみようという気になった。 中学三年生の教え子と心中した旧友の葬儀に関して「内ゲバの絡みか」といった声が出ていたように、いわゆる全共闘世代の中年男女の生活と性事を描いていたからか、友人加藤(岸部一徳)の妻雅子(大谷直子)と濃密な情事を重ねていた、売れない作詞家山崎を演じていたのが柄本明だったからか、本作の脚本を担った荒井晴彦が監督も務めた秀作『身も心も』['97]を想起した。 これなら『身も心も』のほうがずっと好いと思いながらも、相性がよくない藤田監督作品のなかでは『リボルバー』が唯一の例外というようなところからすれば、わりと面白く観ることができた。もっとも、本作が気に入る部類にあるのは、石田えりが出演して山崎の付き合っている三浦理子を演じていたからなのかもしれない。 理子とのセックスにおざなりな山崎に性的不満を募らせていた彼女がつい、図書館に通ってくる大学院生(趙方豪)に身を任せたことで「させ娘」と吹聴されて図書館を辞めざるを得なくなったばかりか、居場所を突き止められて輪姦にかけられたりしていたが、遅ればせに戻ってきて彼女の望んでいた結婚を今ごろになって切り出した山崎に「私、誰とでも寝る女よ」と告げたら、山崎から「俺も誰とでも寝る男だ」と返され、「この前、三人の男に回させたわ」と言うと、自分もさんざん人妻と耽っていたと返され、「私なんか犬ともヤッたわ、近所の…」などと言い返して、遂には笑い合っているのを耳にした大学生の妹の由子(髙橋ひとみ)から「ばっかみたい」と呟かれているのが可笑しかった。そして、山崎から「産むのか」と問われ「誰の子かって言わないのね」と返して誰の子か訊かれると「私の子よ」と産む意志を見せている場面を好もしくみた。 全共闘世代において、'80年代というのがどういう時代だったのか当事者ではない僕には想像も及ばないが、生きることに対する、ある種の投げやり感と共にある拘りのない鷹揚さのようなものが感じられて、興味深かった。「あの時代に死ななかったら、もう生き続けるしかないじゃないか」という序盤での山崎の台詞が印象深い。 それにしても、原作小説を書いた中山千夏は、何を思って筆を執ったのだろう。映画化作品からは、今ひとつピンと来ず、原作を読んでみたいと思った。荒井晴彦がかなり脚色を加えているような気がする。 | |||||
by ヤマ '23. 8. 8. BS松竹東急ミッドナイトシネマ録画 '23. 8.10. TOEIch.録画 | |||||
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