『スペース・カウボーイ』(Space Cowboys)['00]
『遠い空の向こうに』(October Sky)['99]
監督 クリント・イーストウッド
監督 ジョー・ジョンストン

 公開時以来、二十三年ぶりに観たが、やはり面白い。それどころか、劇中のライト・スタッフ【Right Stuff】ならぬライプ・スタッフ【Ripe Stuff】(字幕では「熟年野郎たち」と記されていた)と自分が同世代になっている分、よけいに感慨深いものを覚えた。おまけにオープニングのNASA発足の1958年というのは、僕の生まれ年だ。そして、ロシアをアメリカが屈託を抱えつつもパートナーと呼んでいた時代の作品だったことにも感慨深いものを抱かずにはいられなかった。

 今回再見して、モノトーンで綴られるオープニングの回想シーンは、ラストシーンに現れたホーク(トミー・リー・ジョーンズ)が月面で岩に凭れて見ていたものだったような気がした。四十年前に高度34,000から見てあそこへ行くんだ、本当に行けたら すごいが…と言ってホークが口ずさんだ♪フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン♪が流れていた。四十年前に自分が言った“1”の合図でを宇宙では、フランク(クリント・イーストウッド)が返してくれてもいたわけだ。人生最悪の日は、アームストロングが月面に降りた日だと言っていたフランクに対し、ホークがお前に言われてその気になった日だと返すなど、随所での台詞のやり取りがなかなか愉快な上等のエンタメ作品だという気がする。

 イチバンの儲け役は、満腹で曲芸飛行に搭乗してきてゲロを吐いた若者に、着陸後迎えに来たGFの姿を見てなんて勇敢な若者だ 脱帽だよなどと大声で言っていたホークに間違いないのだが、若い時からひたすら女好きで、爺さんになってもTVのトークショーで女殺しもいるとかと問われてそんなつもりはないんだが-ご婦人方が-果てしない絶頂感を味わいたがるので ついなどと言っていたジェリー・オニール(ドナルド・サザーランド)にしても、宇宙でフランクから脱出を命じられても拒んで、ジェリーとともにシャトルに居残った縁の下の力持ちタンク(ジェームズ・ガーナー)にしても、揃いも揃ってタイトル通りのカウボーイ気質が魅力的な人物造形だったように思う。

 フランクが無茶ばかりすると非難していたホークのやってみせていた着陸方法でトップガン・マーヴェリックのごとく“コンピューターには出来ない技”なるものを、ホークを真似て微かに口笛を吹き、不安げに口真似までして思い出しながら果敢にやってのけていた。奇跡の着陸を果たしたフランクが、歓喜に湧く航空宇宙局本部とは対照的に、ホークを連れ帰れなかったリーダーとしての無念を滲ませている表情が印象深く利いていたように思う。その後に妻バーバラ(バーバラ・バブコック)と夜空を見上げる、かのラストシーンが来る。いい映画だ。

 二十三年ぶりに再見して改めてそう感じた。フランク&ホークは無論のこと今回は彼ら以上に、ジェリー&タンクの男気にニンマリした。こういうテイストの映画を本当に見掛けなくなったような気がする。往年の西部劇ファンとしては、まったく残念至極だ。先ごろ観たばかりの華麗なる週末['69]でも問われていたような類の男気のことである。


 翌々日に観た『遠い空の向こうに』は、スペース・カウボーイズではなく、まさにロケット・ボーイズと呼ぶべき前年の映画で、二十三年ぶりに『スペース・カウボーイ』を再見したばかりのタイミングで初めて観るという奇遇を得た作品だった。そのオープニングも、『スペース・カウボーイ』の1958年の一年前になる、1957年10月の空に、ソ連が世界初の人工衛星スプートニクを打ち上げて全世界に衝撃を与えたというニュースからだった。

 スペース・カウボーイズのチーム・ダイダロスと同じ四人組のチーム・コールウッドとでも呼ぶべき高校生たちと、彼らを取り巻く大人たちとの関わりがとても気持ちよく描かれている作品で、劇中に出てくる映画『縮みゆく人間』['57]のタイトルとは逆に、田舎の炭鉱町の豊かでない境遇からは叶わぬ夢だった大学進学を果たす物語だった。ロケットの打上げ実験について学生科学技術フェアに発表して優勝し、スカラシップを得て、“Shrinking Man”とならずにNASAの技術者になったという実在のホーマー・ヒッカムによる自叙伝を映画化したもののようだ。溶接だとか強度の高い金属の利用だとか、大人の技術と知恵で支援してもらった恩をずっと大事にしてきていたのだろう。物語の根底がそこのところにあるのがいい。併せて美人のドロシー(コートニー・フェンドリー)のような上っ面より、バレンタイン(カイリー・ホリスター)のような寄り添いのほうが値打ちのあることも教わって、まことに充実した高校時代だった。職業体験までしているのだから、ホーマーの高校時代は最強という外ない。

 上記に関連してホーマーのきのう、スプートニクを見たんだ。で、思ったんだ。この町も世界の一部なんだって(大意)という台詞を映画評論家、イラストレーターの三留まゆみさんがSNSで寄せてくれた。そして、原題の“October Sky”というのは“Rocket Boys”のアナグラムなのだと教えてくれた。まさにスプートニクとチーム・コールウッドを繋いだタイトルだったわけで、素晴らしいアナグラムだと感心したが、つくづく今(本来は今に限らないのだが)とりわけ今の若者たちに最も必要な類の刺激だと思う。ニッポン凄いだとか言って喜んでいる年寄り連中と違って、若者には、広い世界を目指す契機の得られる出会いが必要だと改めて思ったのは、近作邦画ファミリアを観たばかりだったからかもしれない。

 ホーマーを演じたジェイク・ギレンホールが十九歳のときの初主演作のようだが、彼の出演作で最も好いのは本作ではないかという気がする。父親ジョンを演じたクリス・クーパーが味のある演技を見せていて、息子憧れのヒーローは高名なブラウン博士(本人)などではなく、頑固で強い炭鉱夫たる父だと息子から直に伝えられて見せる表情がなかなか好かった。

 また、ローラ・ダーンの演じていたライリー先生がホーマーたちに与えた導きが見事だった。ホーマーの熱意を見込んで贈った専門書は、彼らには手の届かない高価なものだったろうし、フットボール以外にもスカラシップがあることを教えたのも彼女だった。そして、♪煙が目にしみる♪や♪オンリー・ユー♪などの'50年代のオールディーズがふんだんに流れ、ノスタルジックな気分に大いに誘われた。いい映画だ。

 『スペース・カウボーイ』にしても『遠い空の向こうに』にしても、こういう男の子映画が、本当に少なくなってきているとつくづく思う。
by ヤマ

'23. 5.26. DVD観賞
'23. 5.28. BSプレミアム録画



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