『トップガン マーヴェリック』(Top Gun: Maverick)
監督 ジョセフ・コシンスキー

 トム・クルーズは、やはり凄い。彼の演じたピート “マーヴェリック” ミッチェル大佐自ら立案したミッションインポッシブルとしか言いようのない作戦に必須のミラクル1、ミラクル2どころではないミラクル・マーヴェリックに痺れた。

 何十年経とうが、世紀が変わろうが、いささかも揺るぎのないトム・クルーズというジャンルの原点にして到達点とも言えるような映画世界を堪能できたように思う。何らの意外性なく、全く思っている通りに運ばれて行く展開を観せられながら、これだけスリリングなワクワク感とにんまり感を持続させられるのは、もはや奇跡的という外ない映画だという気がした。スクリーンで繰り広げられたミッションインポッシブルな作戦と戦闘以上に凄いことだと思った。

 三十六年前の前作トップガン['86]を若き日に観ている我々世代には、実に格別のものがあったように思う。エンドロールに“トニー・スコットの思い出とともに”というクレジットが記されていたが、とりわけトニー演出へのリスペクト溢れるオープニングからの一連のシークェンスを観ていると「おぉ~!」とならずにはいられなかった。手元にあるチラシには、元々の公開日「2020/7/10」というものがあるから二年遅れということになるけれど、兎にも角にもスクリーン観賞できて良かったとつくづく思った。

 そして、トムが乗ると、kawasakiのバイクでも、F-18戦闘機でもF-14戦闘機でも、ヨットでも、女性でも、やたらめったらカッコよくなるマジックを大いに愉しんだ。ペニーを演じたジェニファー・コネリーを観るのは、八年前に観た『ノア 約束の舟』['14](監督 ダーレン・アロノフスキー)以来だと思うが、ノアの妻を演じていたときより格段に若々しく艶があったように思う。

 三十年前に『幸福の条件』を観て、さすがのロバート・レッドフォードもこういうラブシーンを演じられる歳ではなくなっているのだなと痛感し、嘆息したときの年齢と同じ年頃だと思うと、トム・クルーズの破格ぶりに改めて驚く。トムの魅力は、何と言っても、あの何の翳りもない明朗な笑顔だと僕は思っていて、あれは天性のものだという気がしているが、『カクテル』['88]で強く印象づけられた覚えのある笑顔をこの歳になっても保ち続けているのは、本当に凄いと思った。ペニーから最初のデートで?と娘に思われるのは嫌!と二階の窓から出るよう求められ、却って図らずも鉢合わせしたアメリア(リリアーナ・レイ)にもこの最強の笑顔を向けていて恐れ入った。ああいう場面で、あの笑顔が似合うのはトムしかいないような気がする。ショーン・コネリーも笑顔を見せそうだが、トムのような少年的な邪気の無さよりも伊達っぷりが前に出てしまうに違いない。

 そのうえで最後には、(上からの指示が何だったかを)考えずに(タフに鍛えた自分の身体反応に基づいて)行動するという教えをしっかり受け継ぎ、身に付けた亡き盟友の遺児“ルースター”ブラッドショウ大尉(マイルズ・テラー)を見るピートのイカしたまなざしを映し出す。

 どこからどこまで取っても無人戦闘機には到底なし得ない作戦行動によって全員生還を果たした“マーヴェリック”作戦同様に、マジカルなまでのエンタメ映画ぶりに感銘を受けた。そして観終えてから、無性に三十六年前に観た前作をスクリーンで再見してみたくなった。大したものだ。
by ヤマ

'22. 6.10. TOHOシネマズ7



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