『ファミリア』(familia)
監督 成島出

 チラシ裏面の記載によれば、いながききよたかのオリジナル脚本とのことだが、なかなか力のある強いメッセージを孕んだ作品で大いに感心した。折しも入管法改正(出入国管理及び難民認定法改正)にまつわる問題点指摘が注目されている時期の作品となれば、尚のことだ。

 それまで名も知らなかった日揮というプラント企業名を記憶したアルジェリア人質事件が起きたのは、もう十年も前のことになるが、本作を単に在日ブラジル移民の状況からのみ描き出してはいないところが、目を惹いた。そして、神谷学(吉沢亮)が動画に遺した言葉に心打たれた。本来、世界は凄いであって、ニッポン凄いなんかじゃないはずだ。

 ブラジル人居住団地としてコミュニティ化した居住区が現れたとき、群馬県が舞台なのかと思っていたら、車のナンバープレートから豊田市と伺わせて、愛知日日新聞ときたから、リーマンショックによる大量解雇を行なってブラジル人労働者から使い捨てられたとの恨みを買っていたのは、トヨタになる気がする。いよいよ行き詰ったマルコス(サガエルカス)が、学の父神谷誠治(役所広司)を頼ったときに応えた警察に行こうとの言葉に、恋人のエリカ(ワケドファジレ)がそれはできない、強制送還になってしまうと言っていたのが耳に残った。気になって調べてみたら、在日ブラジル人の数は愛知県がダントツで群馬県の4.5倍だった。

 直接、マルコスがそうだったとは思えないが、考えてみれば、最初の職は技術者として就労ビザの得られる仕事についていたとしても、解雇によって失業した際に、正式なビザの得られる職には就けない人々が大量に発生しているのだろう。それによって、すんなり帰国できるならいいけれども、一家揃って移住してきていれば、そうすんなりとはいかないはずだ。長引いた不況のなか、日本人であっても、リストラによって失業した後の再就職は困難を極め、転職するたびに劣悪な就労条件を受け入れざるを得ない負のスパイラルに陥ると言われているのだから、外国人労働者なら尚のことなのは、容易に想像の付くところで、どんどん使い捨て労働に甘んじるしかなくなるわけだ。

 本作で描かれていたような、解雇に際して未払い賃金を地面に投げ棄てて、拾え!と吐き捨てられるのとは違っても、内実はほぼ同然ということが、ままあるのだろう。人心が荒まないわけがない。半グレ榎本海斗(MIYAVI)の荒みと筋違いの恨みの遠因もそこにあるような気がしてならなかった。そして、狂気に近い妄執に囚われて冷酷無比の怪物になっている海斗のみを悪役にせず、彼以上に虫唾の走る存在として、怪物に取り入り取り巻く半グレ集団を描いている点を大いに支持したいと思った。

 そのうえでの、海外テロで失った息子学とナディア(アリまらい果)に代って、神谷誠治が与えられるファミリアというわけだ。凄い作品世界だなと思った。誠治をマルコス、エリカと同じ中卒にして、はぐれ者からの更生者としてあるところが納得感の増す物語だったように思う。マルコスとエリカが屋上で一夜を過ごした朝の毛布はどこにあったものなの? などという野暮なことは言わないようにしよう。
by ヤマ

'23. 5.24. 美術館ホール



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