『Love Letter』['95]
監督・脚本 岩井俊二

 昨年観たラストレター['20]での豊川悦司と中山美穂に感慨深いものを覚えて、二十六年ぶりに再見してみた。小樽の町で渡辺博子(中山美穂)と藤井樹(中山美穂)が交錯する場面に、お気に入りの『ふたりのベロニカ』['91]を想起したことを思い出した。両作とも、しっとりした味わいと透明感とが同居している稀有な映画だという気がする。

 また、序盤で仄めかされる「企み」という言葉に似つかわしい手の込んだ仕掛けの多い作品である点でも両作は共通していたように思う。ちょうど二週間ほど前に初めて観た『花とアリス殺人事件』['15]が非常に仕掛けの多い映画ながらも、かつて観たときに大いに感心した花とアリス['04]にはかなり及ばない感じで、いろいろなところに遊び心を加えて作り手が楽しんでいるアニメーション作品として、町の様子を描いた背景作画などに何やかにや見つけて遊ぶ映画だったような気がしたことからすると、本作は岩井監督の長編デビュー作だけあって、とても瑞々しく感じられた。

 そして、久しぶりに観て、改めて中山美穂の体現していた“十代のそれとは明らかに違う二十代女性ならではのあどけなさ”に魅せられるとともに、山に向かって叫ぶ樹を見守りつつ、梶親父(塩見三省)に「今いっちゃんええとこや、邪魔せんときいや」と言いながら微笑んでいた秋葉(豊川悦司)の笑顔に感心させられた。『ラストレター』で松たか子の演じた裕里が覗かせていたあどけなさとの対照が印象深く、両作に通じる系譜において作り手にとって最も大きかった部分は、もしかすると“手紙”以上に“女性のあどけなさ”だったのかもしれないと思った。

 神戸の街は幾度も行ったことがあるけれども、小樽の街は一度行ったきりだ。どちらの街でも雪景色は経験していないけれども、そう言えば、ともに夜景が名高い街だったような気がするなどと思ったりもした。図書館・図書室の出てくる映画は、やはりいい。'84年に中学を卒業した藤井(柏原崇)が図書カードの裏に樹(酒井美紀)をスケッチしていた、プルーストの『失われた時を求めて』は第7編だったから「見出された時」なのだが、映画化作品は観ていても、読書のほうは今に至るまで果たし得ていない。思い返せば、樹(中山美穂)のなかで失われていた時が、博子(中山美穂)との文通によって見出される話だったような気がする。思えば『ラストレター』も、文通によって「時が見出される物語」だった。
by ヤマ

'21. 8.15. BSプレミアム録画



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