『望み』
監督 堤幸彦

 十一年前に誰も守ってくれない』['08] を観たときに、常々感じている日本でのメディアスクラムの標的次元の低さとかネットバッシングの下劣さとかをストレートに描いていた部分の凄まじさをもまた“煽り立て”風味で仕立て上げられることに対しては、ついつい煽られてしまう自分を感じて狼狽させられるだけに、少々気に障るものを覚えた。と記したような点からは、そういった厭味を回避して、ある意味、現実感のある描き方に抑制したうえで、その問題点を浮き彫りにしていることに好感を覚えた。

 妻(石田ゆり子)の見つけた包装パッケージから探し当てて取り上げたはずの小刀が見当たらなくなっていたことから、ゴールデンスランバー['10]の父一平(伊東四朗)ほどの揺るぎなさではなかった分、規士(岡田健史)に代わって拝ませてくれと、発見された被害者の告別式会場に赴く試練を自らに課さずにいられなかったのであろう石川建築士(堤真一)の心情に打たれた。

 その葬儀会場で、石川を殴りつけた高山建設社長(竜雷太)が口にしていた「常識」という言葉は二度目だったが、人が口にする常識なるものの是非もない忌まわしさを改めて思った。その後、きちんと詫びを入れに来ていた高山社長と殺された少年の祖父(渡辺哲)の場面を置いてあったことが印象深く、そのときの石川の対応というのは、彼らのいう「常識」からすれば、破格の立派な態度ということになるのだろう。だが、昨今の世情を見ていると、石川の立派さどころか、詫びを入れるべきことにも頬かむりをするのが半ば常識であるかのようにふるまうお偉方が支持される世の中になってしまい、何とも遣り切れない思いが湧いてきた。

 先ごろ観たばかりの星の子に改めて宗教に対する白眼視のことを思い、本作を観て改めて犯人でもない者への過剰攻撃のことを思った。どうして日本は、こんな国になってしまったのだろう。

by ヤマ

'20.10.18. TOHOシネマズ5



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