『焼肉ドラゴン』
監督 鄭義信

 二十年前に観た愛を乞う人も、十四年前に観た血と骨も、なかなか観応えのあった脚本家の鄭義信、初の監督作品ということで、ちょっと楽しみにしていた。大泉洋の演じた哲男が少々鬱陶しかったが、亀の子たわし(ハン・ドンギュ)がなかなかよく、何よりも、ともに子連れ再婚で故郷の村を失っている一世の龍吉(キム・サンホ)と英順(イ・ジョンウン)の夫婦間の距離・間合いがよかった。

 二人の間に生まれた唯一人の子ども時生(大江晋平)が昭和44年に中学生だったから、昭和33年生れの僕より少しだけ年上になるわけで、原作・脚本・監督の鄭義信と重なっているのかと思ったら、鄭義信は僕と同学年のようだ。その時生のパーソナリティは、龍吉ととても重なっていることが窺えただけに、龍吉の「いじめくらいでへこたれるな…」との呟きが切なかった。ラストの龍吉らしからぬ吠え声は、たぶん時生の叫びの宿りということなのだろう。あそこに還ってきていた時生の魂が回想的に語っている物語だったように思う。

 その時生の目に映った三人の姉たる在日一家の女性たちの逞しさと華を演じた真木よう子【長女・静花】、井上真央【次女・梨花】、桜庭ななみ【三女・美花】がとても魅力的だった。とりわけ梨花と美花は、両親ともに違って血の繋がりもない姉妹なのに、感情表出とキスの激しさはそっくりで、なかなか迫力があったように思う。

 同じく一世を描いても『血と骨』の怪物オヤジ金俊平(ビートたけし)と本作の地味で寡黙な金龍吉の対照ぶりは、どこからくるのだろうかなどとつい思ってしまった。それほど違っているのに、どちらにも“在日”として背負い背負わされているものが濃密に漂っているように感じられた。

 そして帰国事業に乗って新天地に向かおうとしている哲男と静花を見ていると、五年前に観たかぞくのくにをついつい想い起してしまった。『焼肉ドラゴン』の金一家の二世三姉妹が本作の英順と同じ年頃になった時点の後日譚を観てみたい気がしてならない。ちょうど2002年の日韓ワールドカップの頃くらいになるのではなかろうか。
 
by ヤマ

'18. 6.26. TOHOシネマズ8



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